3/3朝日俳壇・歌壇。昨日写真だけでしたので。
【評】「掌を広げて虚空を掴むしぐさもあった、小澤征爾の指揮。今、その魂は春浅い天上へ、深悼。
★干したきは己代りに布団干す(南房総市)山根 徳一
【評】何となくしけっぽい自分にさよなら。
★如月の兜太の遺影書架にあり(川口市)青柳 悠
【評】「書架」という場所が良かった。
※兜太さんの忌日は2/20(2018年)。如月は陰暦の二月。
★どっこいしょ土を転がす蕗の薹(厚木市)北村純一
【評】植物の力を捉え、「転がす」が的確。
★ため息のふかさにへこむくず湯かな(日立市)加藤 宙
★北校舎五時間目まで薄氷(神戸市)藤井啓子
◎長谷川櫂選
★原発のほかは蕪村の春の海(栃木県壬生町)あらるひとし
【評】のたりのたりとはゆかぬ原発。
※蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」は瀬戸内の須磨の浦で詠まれた。
★聞きたしや子どもの声の鬼は外(東京都大島町)大村森美
★妻の居てこれ初夢と気付きけり(上尾市)清水昇一
★箱舟の海苔屑曳いて帰りけり(藤沢市)大内菅子
★一軒宿比良の雪解水を引く(大阪市)今井文雄
★三千風(みちかぜ)の庵春めく西行忌
【評】大淀三千風。その庵とは大磯の鴫立庵。
※「西行忌」は建久元年(1190年二月十六日。西行が大磯あたりの海岸を吟遊して「心なき身にもあはれは知られけり鴫立沢の秋の夕暮」と詠んだことに因みその面影を残す景色の場所に鴫立沢の標石が建てられ、後に俳諧師の大淀三千風(おおよどみちかぜ)が鴫立庵主第一世として入庵した。
★春の水能登の水道甦れ(尼崎市)田中節夫
【評】阪神淡路大震災の句 「春の水甦りたる蛇口かな(稲畑汀子)」を踏まえる。
◎大串章選
★生き生きと流るるさまに滝凍る(北茨城市)坂佐井光弘
★薄氷に淡き光の遊びをり(茅ヶ崎市)藤田 修
★雪霏霏と倒壊したる家家に(下田市)森本幸平
★梅園の山なだらかに香りけり(伊万里市)田中南嶽
★春立つや水脈長々と沖目指す(柏市)藤嶋 務
★ひこばえの森の記憶を引き継ぎて(日南市)宮田隆雄
※「ひこばえ」=蘖。春、樹木の切り株や根元から萌え出る若芽。
★嘗て牛小屋かつて鶏小屋梅白し(静岡県河津町)岩城紀子
★手のなかに綿虫包む日暮かな(川口市)青柳 悠②
◎高山れおな選
★老兵のやうな原発冬銀河(東京都足立区)無京水彦
★雪女真つ赤な息を吐きにけり(大村市)小谷一夫
★をりづるをほどくがごとくはるのゆき(苫小牧市)齊藤まさし
★黄砂吹き込める青物市場かな(京都市)室 達朗
★息詰めて聴けばかすかに雛の息(秋田市)松井憲一
★零度には零度の熱の確とあり中学受験の子ら降りる駅(神戸市)松本淳一
【評】零度は絶対温度では273K。零度でも確かに熱はある。零度の寒気の中の受験生たち。
★ピヨヨンと黄泉の子に来るメールあり又会おうなと 聞いたかおーい(田辺市)龍田早苗
【評】亡くなったのを知らずに来るメール。「おーい」が悲しい。
★いつだってそのときなのにそのときをのがしてしまってあのときという(館林市)阿部芳夫
★良いことが何もなかった一月の末に探査機蘇生のニュース(仙台市)二瓶 真
※1/20、日本の月面探査機(SLIM)が月上陸に成功したが、太陽電池の不調により活動があやぶまれたが、28日の夜、運用を再開した。これによって日本は、アメリカ、旧ソ連、中国、インドに続き、月面着陸を成功させたことになる。SLIMは月の起源に関する手がかりを探るため、月面の岩石の組成などを調べる。
★SLIMなる月探査機は"神酒の海”に軟着陸す足のもつれて(大分市)岡 義一
★夕焼けの配られてゆく部屋ごとにひと日背負いて人の帰り来(大阪市)多治川紀子
★ユキヤナギの白き小花がゆれてゐた大震災前の幸せな日々(国立市)半杭螢子
◎馬場あき子選
★荒海の魚貝売りるし朝市の能登の言葉のやさしかりきよ(横浜市)米長百合子
★口笛に腹をゆすりて駆けてくる仔牛に指を吸はせるをとこ(厚木市)北村純一
★難読の地名は多く世にあれど山形に及位(のぞき)、無音(よばらず)、左沢(あてらざわ)(札幌市)伊藤 哲
☆アルバムを見ながら思ふ背広など着たこともなき父の一生(大分市)野田孝夫
※佐佐木幸綱共選。
★デブリとふもの人間を睨み続けをりその塊の赤き眼光(福島市)美原凍子
※「デブリ」=宇宙ゴミ。宇宙開発に伴ってその数は年々増え続け、対策が必要となってきている。
★神宮に能登にも福をと豆をまく大の里関の大きな掌(鹿嶋市)大熊佳世子
◎佐佐木幸綱選