2/25NHK俳句 題「バス」の回の特選9句(選評は高野ムツオさん) (敬称略)

★(一席)陽炎に浮いたバス来るそれにのる 埼玉県加須市 持塚悦夫

 〈評〉街中もいいが、田園の方が自然。陽炎に揺らぎながら、田圃の一本道をやって来るバスがユーモラス。さて、どんな乗り心地なのだろう。すぐに夢の世界に連れて行ってくれそうだ。★(ニ席)話しかけ話しかけられ帰省バス 千葉県松戸市 覚正一徳

 〈評〉帰省バスと言っても長距離バスではない。ローカル線から乗り換えた循環バスあたり。「暑いね。どこまで帰るの」「隣町まで」「親孝行するんだよ」「はい、頑張ります」。ガトゴトと楽しげ。★(三席)人はみな誰かの遺族春のバス 神奈川県川崎市 蒼空蒼子

 〈評〉地方の路線バスあたり。対面の座席に供花を抱えた人が何人か座っている。彼岸の墓参りだろう。その時ふと、当たり前だが厳粛な事実に気づいた。人は誰もが故人に支えられて生きている。手を上げるここがバス停蕗の薹 北海道札幌市 北山てるみ

 〈評〉一日数回のバス。通院のため、いつもの時間に門の前で待つ。手を挙げると、いつもの運転手さんが笑顔でドアを開けてくれる。蕗の薹が見送ってくれる。終バスを降り恋猫の路地に入る 東京都足立区 大和田博道

 〈評〉残業が終えてバスで帰った。家に向かう路地から次々に恋猫の声。塀を越え垣根を潜り。猫も頑張ってる。そう思うとなんだか明日の気力が湧いてきた。春光や強豪校のバス来たる 神奈川県横浜市 穴山ゆう 

 〈評〉何も野球でなくともよいが、まずは春の甲子園。「来た、来た、優勝候補校のバスだよ」確かに、春光に輝いて、バスまでが大きくて強そうだ。初夏や水をぶつけてバス磨く 福井県坂井市 小林陸人 

 〈評〉新しいバスを任された若い運転手。陽光溢れ朝一番に、ターミナルでバスを磨く。「水をぶつけて」の荒々しい表現からバスへの愛情がたっぷり伝わる。友垣は凍星一人バスを待つ 静岡県静岡市 大川美代子 

 〈評〉ちょっとかっこいい。現実は厳しいが、満天の凍星を友として頑張れるのは若い時代にしかない。かっこつけていいのだ。孤立無縁でもがんばれ。春の夢キリコの街をバスに乗り 滋賀県大津市 星野曉 

 〈評〉ありそうで、どこにもない。どこかに行けそうで、どこにも行けない不思議なキリコの街。たとえ絵の中でもバスに乗ったら元には戻れないだろう。