2/26毎日俳壇・歌壇。

(片山由美子)

★探梅やぬかるみに足とられつつ 東京 小栗しづゑ

★父の撮る成人の日の晴れ姿 羽生市 今成公江

★切れ味の悪き鋏やよなぐもり 葛城市 山本 啓

★いちはやく銀をちりばめ猫柳 越谷市 安居院半樹

★金閣の影の上なる浮寝鳥 和歌山 神野一馬

★春の風邪妻にうつして治りけり つくば市 小林浦波

★もう六時いやまだ六時寒の明 中間市 升水恵美子

(小川軽舟選)

★熱燗や亡き友一人また一人 横浜市 瀬古修治

★湯豆腐嵯峨野は雨に暮れにけり 藤沢市 青木敏行

★カップ麺すする夜勤除夜の鐘 仙台市 鎌田 傑

★警策のひびく古刹や雪深し 伊賀市 福沢義男

★せせらぎの音に力や春近し 善通寺市 合田 豊

★立春の瓦礫の中のスマホかな 鈴鹿市 松井政典

★人生に続編はなし毛糸編む 香取市 杉浦正子

★冬菊や父がつかひし帽子掛け 東京 浦上天守

★籾殻に朝日の温み初雀 大阪市 余田酒梨

(西村和子選)

★陽の射して岬かぐはし野水仙 奈良 高尾山 昭

 ※「かぐはし」=香ぐはし、馨し。香り高い。かんばしい、美しい、心がひかれる。

★程々に己を赦し玉子酒 福津市 瀧 あき子

★寒北斗余生も長くなりにけり 西東京市 岡崎 実

★冬の日を沈め刃物のごとき海 山形 佐藤美和緒

★寒晴や沖に二隻のトロール船 延岡市 九鬼 勉

★一条を残して滝の凍てにけり 我孫子市 桑原真喜子

★絵が楽しきみが手製の新暦 常陸大宮市 笹沼 實

(井上康明選)

★まんさくや少女の混じる草野球 平塚市 日下光代

★公魚(わかさぎ)を釣り上ぐ光もろともに 加古川市 伏見昌子

★芽柳を玩(もてあそ)ぶかに風止まず 横浜市 斎藤山葉

★凍星や十五少年漂流記 浦安市 上村実川喜

★氷らざるところのありて氷りをり 川崎市 折戸 洋

★兄弟の大きさ競ふしやぼん玉 相模原市 はやし 央

★春待たず逝きし友なり空見つむ 安曇野市 小坂るり子

★廃校に残る黒板菜の花忌 奈良市 上田秋霜

 ※「菜の花忌」=菜の花(特に色)を愛した作家司馬遼太郎の忌日、2月12日(平成8年)。72歳。

★夕空を残して春のツ星 八街市 山本淑夫

(伊藤一彦選)

★ひんやりとトレーの上にしずもって鉱物たちの言語はひかり 東京 石川真琴

★戦争を織り込み済みの日常が戦場以外の世界で進む 倉敷市 中路修平

★裏金のこと持ち出さるるを身構える税申告の税務職員 西海市 まえだいっき

(米川千嘉子選)

★ふりむけばきみがなあにと問いかける日常こそがほんとうだった 春日部市 宮代康志

★無農薬で育つ野菜はごくわずか守り通しぬ小さな畑 奈良市 梅本幸子

★昔は目今はマスクを見る癖が付いてしまったパンデミックで 倉敷市 中路修平②

(加藤治郎選)

★贈られた父の香水枕へと夢でも母に会えないように 東京 藤沢静二

★睾丸をサンドバッグにするような北風を受け露天風呂へと 東京 石川真琴②

★交代で運転をしてどこまでも楽しい旅を続けていこう 川崎市 船山 登

★漫画ならこうなるはずだでもそうはならない現実の三コマ目 横浜市 友常甘酢

(水原紫苑選)

★汁にふくらむ高野豆腐よ生も死も恥ずかしさから逃れられない 千葉市 芍薬