2/26読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★円空仏ほつこり御座(おわ)す冬の宿 桐生市 中村正人 

★寒梅やつぼみ小さ蕪村の忌 堺市 原山桂子 

 【評より】蕪村の命日は古い歳時記には旧暦で十二月二十五日とされているが、今日の1月17日にあたる。

★寒鯉の沈み動かぬ力かな 国分寺市 野々村澄夫

 【評より】動かないことにも力が要るということに発見がある。

★北陸へ向う医師団深雪晴 都留市 野中定代

★水餅や生きる力は噛む力 さいたま市 関根道豊

(高野ムツオ選)

★焼け跡の夫婦茶碗や能登に雪 東村山市 副島 健

 【評より】輪島市朝市通り。

★粕汁や被災の画面前にして 橿原市 田原真知

 【評】粕汁は二十日正月、残っていた鮭や鰤で食べる。海藻入りは能登名物。被災者の悲しみをテレビ画面越しながら目にして食べる味の何と も言えない複雑さ。

★向かひ合ふだけの幸せ日向ぼこ 山形市 栗原ただし

 【評より】向かい合っている相手は太陽。少し顔を上げ、目を瞑って、しばし陶然の境地。

★焼失の瓦礫の町へ人へ雪 習志野市 只木 実

★炊出しに手袋ぬぎし小さな手 佐野市 山口裕子

★深々と力たくはふ冬田かな 匝瑳市 椎名貴寿

(正木ゆう子選)

★出張の父とスマホに福は内 神戸市 西 和代 

★母に嘘ついて出かける初詣 渋川市 星野芳美 

★能登へ降る容赦なく降る雪悲し 福山市 平井和子 

★蒸し米の秒を争う寒造 滝沢市 小田佐枝子 

★四歳と二歳の音や枯葉道 横浜市 瀬古修治

(小澤實選)

★暖かやフラダンス好きおばあちゃん 広島県 水野英明   

★彩雲のかかる遠富士冬日没る 埼玉県 西村房男

★編み込みはティラノザウルス春セーター 倉敷市 中路修平

★小手打ちと面打ち同時寒稽古 八代市 貝田ひでを 

★寒明けやぴんと立ちたる山羊の耳 東京都 岩崎美範

(小池光選)

★本名で最期を迎ふそのことが逃亡の果ての願ひなりけり 伊勢原市 佐藤治代

★ふふうっと笑える短歌三度読み点滴室のとびらを開ける 木津川市 清水恭子 

★うちのひと道の反対側で手をたたく鯉じゃないんよ名前があるよ 狭山市 古谷真利子

★容赦なき電動のこの轟音に従容として倒る老木 大阪市 黒田道子

★夕食はちくわ二本を食べただけ長い人生そんな日もある 守口市 小杉なんぎん

★掛け布団が重たくなったとひとり言おんなじことを母も言ってた 町田市 城所レイ子

(栗木京子選)

★紅白に踊りはいらぬ歌あれば例へば八代亜紀の「舟唄」 山形市 沓沢晋作

★境内に古式ゆかしき鬼やらひ出番待ちする鬼役十人  深谷市 三上通而

★顕微鏡初めてのぞく幼な子は雪の結晶雪ではないと 香取市 斎藤和子

(俵万智選)

★空っぽのわたしがさみしそうだから造花みたいな予定で埋める 越谷市 あきやま

★いつまでもとけのこる雪は妖精の接着剤のいたずらのあと 東京都 富見井高志

★いつまでも溶け残りたる雪のごと霞草だけ挿さりし花瓶 千葉市 小金森まき

★伸びる根は亀裂のかたち傷つけてはじめて花になるヒヤシンス 朝霞市 桐島あお

★「お互いに変わらないね」と言いながら〈少し老けた〉と互いに思う 仙台市 小野寺健二

(黒瀬珂瀾選)

★風船でガザ囲む壁越えんとする少女の絵にも銃向ける兵ら 千曲市 米沢光人

★さつまいも育みくれし土塊を鍬で均して畑じまいとす 甲府市 伊藤千永子

★暖かき仮のすみかに身はあれど心は寒き被災の村に 金沢市 竪畑政行 

★早々に詣でし今年の一の宮祈るは「戦争終結」のみと さいたま市 三上玲子

★ネクタイをゆるめて嗚咽ふたたびの教へ子の通夜終へて冬月 対馬市 神宮斉之

★友の詠む妻偲ぶ歌の載る歌壇スクラップせり介護思ひつつ 朝霞市 伊東一憲

★先生と生徒のままで半世紀結ばれて未だ名を呼び合へず 泉佐野市 河合陽子 

★獄庭の枯れ枝に咲く雪華見ればふる里浮かぶ蠟梅の黄の 山形市 内牧白岳


◎「俳句あれこれ」 池田澄子 ときめき永久に② 

池田澄子さんの「俳句あれこれ」の2回目。三橋敏雄さんの続きだと予想していましたが違いました。ここの内容はまた読みやすいようにしてあらためて投稿致します。