2/26長崎新聞「郷土文芸」(2) グループ作品、他。


◎「グループ作品」「歌・句誌」より

(ひこばえ句会)

★春泥や轍の跡に子ら和む 篠崎清明

★角島の若布古代の香を零し 外輪ふみえ

★ランタンの黄色映ゆるよ春の川 山脇順子

★早春の厨のくもる硝子窓 吉田志津子

(一樹会)

★定期船来るたび島の芽吹きをり 田中蔦枝

★ゆうゆうと老いも働き種選 西のぶ子

(あたご荘俳句会)

★節分子泣き相撲の泣き笑い 紙谷久美子

★堂々とまっすぐ伸びる土筆の子 川本こう

(太白12月号)

★雨止みて我を取りまく蝉の声 松尾眞利子 

★絶唱を終へ転がりて秋の蝉 吉田章子 

★かまきりの頭三角我四角 西川武治

(杏長崎12月号)

★長靴の好きな幼子ねこじやらし 廣澤 寛子

(万象12月号)

★蝸牛決して後ろ振り向かず 丸本祥夫 

★おのづからなる細道や萩乱れ 山下敦子


◎「短歌(うた)ありて」

★栗南瓜などと言っても手強くて包丁がっしりくわえて離さぬ 有馬万治子〜クリカボチャは名前からしてほっこりと柔らかそうに思えるが、高齢者などには切るのが大変で、包丁を入れてはみたものの、抜き差しならぬ事態に陥る騒ぎは幾度も味わっている。作者は今、まさにその状況にあり、「包丁がっしりくわえて離さぬ」に、厨の一大事が見えてくる。島原にお住まいの作者とは一度だけ会ったことがあるが、物静かで涼しげな声とこの歌を重ねてとても楽しくなり、身近に感じた一首である。短歌に出合った頃、厨は「歌作の宝庫」

と言われていたが、新鮮な素材があふれている「厨の歌」にあらためて挑戦したいと思っている。(歌の実・山里和代)

★泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん 松下竜一〜1968年自費出版の「豆腐屋の四季」より。大分県中津市でつつましく生きる市井の一青年の思いが社会の反響を呼び、翌年に講談社から出版された奇跡の歌集。当時は若者たちが学生運動にのめり込んだ時代。作者は模範的な青年像としての世間のまなざしに戸惑い、「悩みぬきヘルメット持たず佐世保へと発つと短く末弟は伝え来」と歌い、 この後反公害・ 反開発の市民運動に取り組み、「砦に拠る」 や 「狼煙を見よ」など圧倒的な作品を残した。83年3月21日、佐世保港にエンタープライズが15年ぶりに姿を現したとき、思えば私もデモ隊の中にいたのだった。(やまなみ・山本博幸)


◎「あわい」欄

▼長崎県3俳人自選7句掲載 (「WEP俳句年鑑2024」)

★東風吹くや釘となるまで木を削り 荒井千佐代(沖・空)長崎市

★石けりの石はそのまま秋夕焼


★箸といふ文化に浸たり秋刀魚焼く 籏先四十三(湾)長崎市

★野を発ちて小春日和の熱気球


★地球儀にうつすら埃春終る 大村市の天野美登里(やぶれ傘)大村市

★海にむき枯るる背高泡立草


など。


▼松尾あつゆき論「松尾あつゆき・聖戦俳句・俳人の戦争責任」川名大 (「WEP俳句年鑑2024」)


 川名大さんによると、長崎の被爆俳人として知られる松尾あつゆき(1904〜83年)は、そのイメージとは逆に戦時中、戦勝賛美や戦意高揚を意図する"聖戦俳句” 4句を詠んでいた。

「旗をかかげ宣戦の大みことを拝し仰ぐに冬晴れ」

「空襲でもなんでも用意万端冬空暮れて青い」


など。


 川名さんは、これらが42年2月号俳誌の特集「米艦隊全滅」に寄稿を求められた句であったことに触れ、「反戦句を詠むことは身に危険の及ぶ タブーであり、国策の戦勝賛美や戦意昂揚とそれに同調する国民感情という同調圧力があり、『米艦隊全滅』というテーマを与えられたとき、それに抗うことは極めて困難だったのである」と指摘。同特集の他の句に比べ、松尾の聖戦俳句色は淡いと評している。


▼春季俳句大会の投句募集 県俳人会(籏先四十三会長)


・大会は、4月14日午後1時〜4時半、長崎市市興善町市立図書館多目的ホール。当日句の席題発表は午前10時半。

・当季雑詠。自作未発表作品。

・投句料は3句1組千円(何組でも応募可)。所定の用紙(コピー可)に記入。

・送り先〒852-8065長崎市横尾1丁目11番6号、県俳人会事務局、西史紀さん。

・締め切りは、3月11日(必着)。

・問い合わせは西さん(電095-857-4233)。


(「あわい」記事は犬塚泉さん)