2/25朝日俳壇・歌壇。
【評】「桐島聡容疑者」の一件。少々美し過ぎる詠みぶりだが、作者が抱いた感慨は判る。
※能登地震に関する作品と同様、桐島聡死亡に関する作品もたくさん寄せられたもよう。短歌も同様。
★老残は隠さふべしや氷面鏡(敦賀市)中井一雄
【評】中七は額田王の歌より。意味は原歌と異なり、「隠すことができようか」となろう。
★懐手して懐手されにけり(つくば市)小林浦波
【評より】向かい合う二人…。
★凩や家路の子等が鬨の声(白岡市)望月充丈
★境内にモデル立ちゐる梅日和(川越市)大野宥之介
★通院はパジャマにロングコートかな(玉野市)北村和枝
★城山に鳥語生まれて春めける(島根県邑南町)服部康人
★雪の日もグランドゴルフするらしい(朝倉市)深町 明
★初蝶や脇目もふらず金次郎(大分県日出町)松鷹久子
◎小林貴子選
★本名で逝きたる最期冴返る(長野市)縣 展子
※桐島聡のことでしょう。
★探梅や土地勘のなき停留所(福岡県川崎町)萩尾節子
★八ケ岳白さを競ふ寒天場(東京都世田谷区)松木長勝
★臘八や菩提樹下の悟り椅子(広島市)大林 實
※「臘八」=臘月八日。臘八節。釈尊成道の日(釈迦が菩提樹の下で悟りを開いた日)。この日には「成道会」「臘八会」が行われる。
★勿来浜(なこそはま)鳥追い小屋の建つ昔(小山市)泉 洋一郎
※「勿来浜」は福島県いわき市勿来町。青い海に白い砂浜のコントラストが美しい。
★院内の髪染め予約春を待つ(高崎市)八木千鶴子
★大氷柱持ちて勇者となりにけり(岡谷市)宮澤羅夢
★外すほど抽斗引くや針供養(東京都板橋区)小黒松男
◎長谷川櫂選
★これしきが生きた証か冴え返る(つくば市)小林浦波②
★春の燈の届かぬ深さ人の闇(境港市)大谷和三
★身悶えの如く流氷軋むかな(苫小牧市)齊藤まさし
★浜名湖をわたれば故郷初列車(佐賀県基山町)古庄たみ子
★松明は鬼の大きさ追儺の夜(筑後市)近藤史紀
★春近しはちきれさうなオムライス(明石市)榧野 実
☆梅一輪窓辺に残し退院す(東京都世田谷区)百瀬俊夫
※大串章共選。
◎大串章選
★寒ゆるむ手を振る若きボランティア(川口市)知念哲夫
★試歩一歩一歩に日脚伸びにけり(合志市)坂田美代子
★命継ぐ能登の人々冬銀河(市原市)高橋秋市
★薄氷の水ごと風に揺れてをり(東かがわ市)桑島正樹
★日溜りに冬いちご摘む平和かな(名古屋市)鈴木修二
★峡深き三村一寺山眠る(北茨城市)坂佐井光弘
※永田和宏共選。
★「水が出た」老いし夫婦は涙ぐみて蛇口に幾度も手を合わせおり(福山市)金尾洵子
☆原子炉を秘めて大型空母来る橘媛の入水の沖を(三浦市)秦 孝浩
※馬場あき子共選。
★旧友のウォルターが遂に出所せり四十五年の服役のあとに(アメリカ)郷 隼人
★母の声聞き取れぬほど微かなり「あり」で始まる五音の言葉(福山市)倉田ひろみ
☆妻逝きてはじめての冬ひとりきり小さな家の大きな寒さ(館林市)阿部芳夫
※馬場あき子共選
◎永田和宏選
★良心の呵責ではない 死を前に自分に戻りたかった「桐島」(観音寺市)篠原俊則
★半世紀近くを別の名で生きて気づかれなかったことの寂しさ(千葉市)高橋好美
★杣に生れ杣に生きにし父なれば斧を埋(い)けにつ榊が下に(中間市)本田信道
★古参囚のWALLYが今朝仮釈放された四十五年の懲役を経て(アメリカ)郷 隼人②
◎馬場あき子選
※佐佐木幸綱共選。
★高齢者施設入居の夫を想いひとりチェロ弾く八十九の春(我孫子市)金井明美
★出産とう大仕事終え牛小屋の隅に寝る子を舐める母牛(佐世保市)近藤福代
★引き出しの奥の毛糸のくつ下に編み込まれたる祖母の時間よ(奈良市)山添聖子②
★異次元へ消えゆくやうに地吹雪の中へ侵入する青きバス (札幌市)伊藤 哲
★地震ふりて地盤が隆起した珠洲のゴジラ岩吼ゆ藻を纏いつつ(箕面市)大野美恵子
★海底に昏きトラフを潜ませて相模の灘は静かに眠る(東京都)三角逸郎
★生活保護費よりも少ない年金に縋って眠る八十二歲(近江八幡市)寺下吉則
◎佐佐木幸綱選
★時国(ときくに)家の北前船も来ただろう備前下津井春の雪降る(岡山市)三好英男
★庭に出で潮しぶき見て足とめるクジラが泳ぐ海が目の前(東京都)三輪裕子
★等身大の選手の写真はりつけた阪神電車みな名がわかる(西宮市)夏川 直
◎同じページに掲載されていた「俳句時評」。2冊の句集が紹介されていました。