2/19西日本新聞「西日本読者文芸」

◎俳句 星野椿選

★黙祷を捧げ始むる初句会 広川 水本艶子

 【評】いいお仲間が皆さんで水本辰次さんを悼んで黙祷を捧げて下さった。初句会なのにこんな寂しいことはない。仏様もそこに居てくださっているように、にこやかな雰囲気も感じる。

 ※水本辰次さんは、福岡県広川町の方で、昨年2月26日、長崎県諫早市の金泉寺付近の山中で遭難し亡くなられた。当時82歳。水本さんは俳人でもありました。艶子さんは名字が「水本」なので縁者かも知れませんね。

★二人居の困ることなき朝寝かな 久留米 田中敏子

★まだ元気ですと賀状に百寿媼 久留米 溝上博子

★日も風も語り出したる今朝の春 糸島 春田美智子

★春めくや献上手織る機の音 福岡中 西村英俊

★長兄の遺品の椿咲き満ちぬ 伊万里 田中秋子

★着ぶくれて背中丸めて行く句会 有田 栗山愼悟

★龍昇るごと左義長の大煙 大川 今泉美代

★方一里花菜明かりに筑後川 福津 藤吉靖信

★初明り舳先に揺るる大漁旗 宗像 伊熊朋則

★どんこ舟春へゆるりと動き出す 大野城 荒木信夫

★敷き藁の中より生る寒牡丹 粕屋 富永素光


◎俳句 秋尾敏選

★魚氷に上る熟(こな)れざるセルフレジ 福岡早 山下靖雄

 【評より】「魚氷に上る」は七十二候の一つで立春の十日後から。せっかく春になったのに、セルフレジごときに手こずっていると。

★裸木の空へ根を張るやうに枝 大牟田 藤尾裕子

 【評】裸木の枝は空に根を張るようだと。まさに逆転の発想。

★注連取るや藁は植木の足元に 糸島 上野純子

★春日のドーベルマンの断尾かな 対馬 神宮斉之

 ※ドーベルマンは、もともとは垂れ耳でしっぽの長い犬種。それを噛まれたり、掴まれたりすることを防ぐために断耳・断尾が行われた。

★餅搗くや見物の子に杵持たせ 福岡早 山崎初子

★四万の絶滅危惧種福寿草 八幡東 真藤修次

★息白くひそみてバードウォッチング 有田 栗山愼悟


◎短歌 栗木京子選

★手を入れる革の手袋孫からの初ボーナスのぬくもり味わう 福岡中 城戸順子

★世の邪気を香気に変えし紅梅や春浅けれど光の満ちて 福岡南 真辺雅惠

★被災地の新成人はいかならむ振袖姿が電車に眠る 糸島 瀬戸口真澄

★パール柑黄色く実りて撓(たわわ)なり御裾分けしたし能登の人にも 久留米 森 茂樹 

★避難所の片すみ受験勉強の高校生にサクラよ咲いて 福岡西 木村陽子 

★まず先に被災地を見る天気予報 雨、雪降るな春よ来い来い 福岡早 宮村美千子

★震災の現場なれども虹はたち音なき色をたわめてゐたり 福津 佐々木和彦 

★山襞の残んの雪の高さまで孫に負けじとブランコ漕げり 福岡西 原 義輝

★故郷の六年ぶりのどんど焼き火の粉の中で妻の手握る 福岡早 玉井秀男

★寒空に百舌のさえずりひびくなり吾も負けじと目ざす一万歩 福岡西 石田ひろみ

★オレンジと黄色のパンジーコンビニの鍋焼きうどんの器に植えた 福岡南 大楠 薰

★「起こします」椅子にうとうと眠りしか耳元に聞く理髪師の声 うきは 川原佳秀 

★家事万能あいそがよくて親切とお褒めことばに孤老を生きる 太宰府 伊藤勝利

★白椿雪にまじりてなお白く位置をしめせり葉にかこまれて 太宰府 関本美津代

★ひとつだけまっ赤なイチゴを入れてみる十三回忌のお膳の中に 福岡南 前田るみ


◎短歌 伊藤一彦選

★おお鍋かと言ふ人はなく春寒に独りの鍋をチャチャッと作る 福岡東 堺 多鶴 

★「はつ恋のあたたかさやね」二日市温泉へ身をしづめて母は 大野城 染川ゆり 

 【評より】作者にとって思いがけない母の言葉だったのだ。だからこそ作者も詠んだ…。

★去年つけし暦のしるしを手掛かりに天に囀る雲雀待ちをり 糸島 森脇由利子

★プライドが消し飛んで行く ブレーキのつもりでアクセル踏んだ不可思議 福岡東 続田春男 

★経典の言葉を重ね読んでいる 戦地を生きる子どもの言葉 熊本東 貴田雄介 

★ふかふかと我は眠りぬ被災地に凍える民は眼裏にいて 福岡早 松澤咲子

★爽やかに離婚したよと友の言ふ駆け落ち婚も賞味期限と 福岡城 藤本きひろ

★カーラーで前髪巻いて寝るんよとニコニコ話す九十四歳 添田 長尾孝子

★友よりの旅の土産は牧水の絵葉書なりぬいつか訪いたし 福岡西 木村陽子

★どの医師も年ですからと言わないが私が先に年ですと言う 川崎 刀祢日出子

★待たされて諦めぬ恋 雪の日に読めば哀しき源氏物語 春日 井上真木子

★入院の荷物の中に忍ばせる新聞短歌、白紙のハガキ 小郡 飯田淳子

★飼い主を待てど売れない子猫達の価格段々下げられて 大野城 荒木洋子 

★事故の時刻差して届きし夫の時計半世紀余を彼の日のままに 太宰府 亀渕咲子 

★厳冬のプランターの土盛り上り水仙の芽ぶき来る春に向う 福岡東 夕田安子


◎川柳 森中惠美子選

★被災地に掛ける言葉が見つからず 福岡中 岩崎正美

★瓦礫の下にあったであろうお正月 太宰府 古屋智恵子

★神様になぜと問いたい能登地震 筑紫野 桂 仁徳

★風花や にわか詩人の血が騒ぐ 福津 中原恵子

★一つずつ記憶の糸の切れて老い 福岡南 下田三休

★自問自答百歲目指す白い画布 福岡西 石田 酎

★寒卵割るも気合いのひとり飯 福岡中 山口由利子

★周りには助けてくれる人ばかり 筑紫野 鬼木南海子

★やることを今やらなくていつやるの 福岡中 白井道義

★舟唄をふと口遊む寂しさよ 熊本西 恒松繁政

★僕はいま 戦争の無い国にいる 八女 吉原鐵志