◎「グループ作品」「歌・句誌」より
★絵馬吊るしカメラに収む受験生 土居 孝
★片時雨れ日矢受け巡る殉教趾 木下慈子
★道真の小さき庵や梅の花 加藤公子
(佐世保句会)
★大灘へ差し交はしたる若緑 髙永久子
★さへずりの森の懐観音寺 鴛渕和明
★着ぶくれていつしかひとり路線バス 福田信賢
★神苑の梅の紅白競ひをり 牛飼瑞栄
★おほかたは父が鬼役福は内 川岡末好
(長崎新聞カルチャーセンター麦の会)
★残る鴨いさかふ水輪また水輪 荒井千佐代
★はや二月もろみを搾る能登杜氏 伊藤壽彦
※能登半島地震で生産停止に追い込まれた老舗酒造が奇跡的に残ったもろみを使って日本酒の製造を再開した、というニュースを見ました。設備が十分に使えない中、昔ながらの製法で仕上げたその酒は「復興の酒」と名付けられたそうです。
★うたた寝の妻に掛けるや春ショール 小谷一夫
★母の忌に集ふはらから梅二月 福永もと子
★煮こごりや父の小言のなつかしく 本多隆子
★鍵をさす音冴返る一人部屋 石橋やす代
★春の泥つけたるままの吾子の靴 宮内百花
(長崎馬醉木会)
★衒ひなく米寿生きたしなずな打つ 木下慈子
★金柑の屋根より高し聖廃墟 辻本みえ子
★手を引かれ初弥撒拝す至福かな 中島久子
★セーターの肘のほつれや網修理 中山朝子
★初夢見む母のベッドで丸くなり 山田聖林
★打ち初めの帽子で応ふナイスオン 小林 筍
★健やかに笑顔あふれる初句会 北野直子
★初釜の龍の水差し干支香合 加藤公子
★花弁餅順に配られ座の和む 中尾和枝
(葵の会)
★鉄門扉音立てつ開く寒の雨 古賀昭子
★蝋梅はうつむくように花開き 小濵千鶴子
(杏長崎俳句会)
★立春の水たぷたぷと唐人菜 米光徳子
(よしきり句会)
★書初や心清めて「夢」一字 川添早苗
★ひとりより二人がうれし大晦日 詩狩 青
★狛犬の守る磐座初詣 篠崎清明
★お降りや静かに光る石畳 東内美智子
★探梅の白一輪にある日差し 樋口千代
★歳晩を久に来し子と酌み合へり 吉岡乱水
▼花鶏9・10月号
★片陰やこの世の涯を引き返し 栗山よし子
★終生を炊事の聖尼梅を干す 辻本みえ子
★父の日の父亡し夫に酒を酌む 木下慈子
★花種や母の小箱の和紙包み 西岡芳枝
★梅漬のつかりし瓶に母在す 桑田峰代
▼氷室11月号
★水底に八月の石拾ひけり 川上和昭
★向日葵を描きつつ生きて米寿なり 友永基美子
▼同人11月号
★紅蓮まぶしきものをこぼしけり 永野濶子
★原子力空母入港蟇鳴けり 鴨川富子
★清流の瀬音楽しむ夏料理 濱崎景子
★白南風や埠頭にLOVEのモニュメント 冨崎加代子
★若葉風乙女の腕の白きかな 出口彰遊子
▼杉11月号
★逝く夏や椰子の実島の理科室に 田中俊廣
★蜘蛛の死を浮かせ何処へ蟻 の列 田中直子
★祖父と孫裸でゐたる詰将棋 小柳萌美
▼河11月号
★八月十五日贅沢な物皿に載せ 井上純子
▼海原11月号
★空港の椅子に眼鏡と紅い薔薇 前川弘明
★ペーロンの太鼓を耳に野球見る 鳥井國臣
▼馬酔木12月号
★長ラッパ長崎くんちの竜おらぶ 中島久子
★針山に妣の春秋萩の風 中尾和枝
★和服みな譲りて軽し野菊晴 中山朝子
★居留地にバグパイプの音今 朝の秋 熱田絵美
▼波濤11月号
★ホームへの肌着に母の名を記す幼き日へと思い馳せつつ 渡辺美樹子
★面会を済ませ独りの帰りみち病床の妻のひとみ迫り来 川野浩一
★真っ白なシーツの端をピン と張り干し終えしわれも背筋をのばす 岸本洋子
★猛暑のいま夏野菜らはピン チなり売り手も買ひ手も思ひは苦し 清田せつ子
★成すべきは成して重責ゆづりたり荷もかろやかに夫と生きなむ 下田秀枝
◎「短歌(うた)ありて」
★前に座す引目鉤鼻色じろの若き男は蹴鞠上手いか 黒田邦子
〜いや、うまいも何も、蹴鞠はしないでしょう、とツッコミを入れたくなる。電車の中だろうか、源氏物語絵巻などに描かれた「引目鉤鼻(ひきめかぎばな)」の貴族を思わせる若者を見て、作者は頭の中で蹴鞠をさせてみた。「上手そう」ではなく「上手いか」と詠む切り口が鮮やかだ。「海港」 98号より。「海港」には、ひとり10首ずつ詠む「題詠の部」があり、題詠によって呼び覚まされた記憶、広がる視点からの歌も並び、楽しく読み 応えがある。今回の題は「引」。同じ作者の、「母言ひし古きことわざ今も生く 「猫を追うより皿引きなさい」」も滋味深い。(あすなろ・平山和美)
★入り来たるカニー匹に声かくる「美容室です。お帰り下さい」 中村清美
〜「心の花」の会員の方の作品で、ほのぼのとしてとても心があたたまる歌だ。奇をてらうような言語遊戯がなく、シンプルな表現が実にすがしく感じられる。美容師であろう作者の店に、ふらりと迷い込んだ1匹のカニ。自らの立派なハサミを生かすべく、作者の技術を学び、床屋さんになろうとでも思ったか。「お帰り下さい」と入店を断られたカニが、すごすごと帰ったとは思いたくない。読後に童謡の「あわて床屋」をついつい口ずさみたくもなり、メルヘンの世界を十分に楽しませてもらえる。 (心の花・丸山稔)
◎「あわい」欄記事