2/12読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★三歳は袋が大事お年玉 我孫子市 森住昌弘

★鷽替る正直さうな人とかな 大阪市 今井文雄

★炊き出しをするも受けるも息白し 宝塚市 武田優子

★初夢に妻の出てくる妻の留守 島根県 重親峡人

★冬灯しもぐもぐ長き老の膳 逗子市 鈴木喜久代

(高野ムツオ選)

★能登瓦伏しし街並みなほも雪 松戸市 早坂哲夫

★避難所に支えあう声冬の星 大仙市 鈴木 仁

★初日記吾(あ)の事よりも能登地震 国分寺市 加藤武夫 

★会釈して白息のみを交はしけり 雲南市 熱田俊月

(正木ゆう子選)

★雑煮椀しまふや能登を案じつつ 東京都 徳山麻希子 

★寒風へ夫なき後の教習所 千葉市 宇野嘉世子

 【評より】運転は任せておけばよかった夫が居なくなって、教習所に通う。寒風の中、一歩踏み出した作者。

★この席に去年妻在しき年迎ふ 東京都 市川 廉

(小澤實選)

★プロレスごつこの兄妹男児初泣きす 川口市 高橋まさお

★軽トラの荷台にトイレ川涸るる 京田辺市 加藤草児 

 【評】このトイレは、河川整備にあたる人が使うのだろうか。下五で大きく転換して、涸れた川のしらじらとした河原が見えてくる。

★麦を踏む古老のラジオよりロック 高山市 直井照男

(小池光選)

★ガザの児とウクライナの児の映像が流れる夕餉皆寡黙なり 東村山市 伊藤美津子 

★「惚けたかも」息子に言へば気にもせず俺の名前を言ってみなと言ふ 栃木市 大森由紀子

★もう行っていいよと鳥のような眼で呟ける母白き壁に囲まれて 長野市 伊藤恵子 

★「世話なしでいいね」と二人強がるも孫らの来ない正月淋し 旭市 工藤 豊 

★年が明けわが持ち時間考える遊び足りない子供のように 京都市 畠中幸代 

★初めてのおつかいのようにわが夫は何度も何度も復唱して行く 芦屋市 宮本允子

(栗木京子選)

★被災地の取り残されし門松よ無念とばかりに無残に傾ぐ 東松山市 韮沢明徳

★能登地震にかつての神戸を思ひ出づ寒き避難所眠れぬ日々を 神戸市 藤崎正彦

★元旦に地震のニュース聞きながら賀状を読むさえこころ苦しき 甲府市 高瀬孝人

★朝市のあのおばちやんも避難所に居るや寒さと余震に耐へて 鴻巣市 渡辺照夫 

★古希越えし吾に復職依頼書が 保育士不足ここまで来たり 岸和田市 岡本雅子

(俵万智選)

★それは罅ではなくて貫入とふたりの日々にかける釉薬 横浜市 紺屋小町 

★地球儀を強く回して大陸も海も氷もひとつの色に 松原市 たろりずむ

★訓練で机の下に潜るたび戻りたくない自分に気づく 横浜市 富尾大地 

(黒瀬珂瀾選)

★被災地に残りし人に背を向けて避難するわれ足どり重し 金沢市 竪畑政行

★AIの予想通りに駒を打ち「流石ですね」と言われてる棋士 吉野川市 喜島成幸

 【評より】人間とAIの競争が様々に進んでいるがそれが本当に社会に幸福を招くのか……。解説者の一言に現代的な違和感。

★吊り落とす大技決めし千代の富士も負けっぷり良き寺尾も逝けり 東京都 上原厚美

★思い出を作ってくれた亡き家族に感謝し生きると涙の被災者 平塚市 原 道雄 

★背後よりおみなごの顎を撃ち抜きし敵機の影を父は拭えず 東京都 富見井高志

★いくたびも子の亡骸をぐるぐると哭きつつ廻る鴉やあはれ 泉佐野市 向井克之介

★一升瓶囲む車座果てが無い農を継ぐ者老い守る者 秋田市 菊地秀悦

★マスター死して赤ちょうちんの灯は消えたそこには真実(まこと)が確かにあった 船橋市 田辺 強