2/11朝日俳壇・歌壇。「シャンプーの香のぷんぷんと猫の妻(萩原豊彦)」他。

◎長谷川櫂選

★主婦歴も皸歴もながながし(四街道市)大塚厚子

★日能ばこ能登を思へば勿体なや(高岡市)野尻徹治

 【評より】能登半島地震の同じ被災地。隣の富山県の人。

★元日夕「にげてください」連呼せり(倉敷市)森川忠信

 【評】NHKアナウンサーの絶叫。あれで救われた人多数。

★舟唄を聴くしんしんと冬があり(越谷市)新井高四郎 

☆涸沼の最後に光あるところ(静岡市)松村史基

 ※大串章共選。

★湯の中のわが手わが足春を待つ(平塚市)日下光代

★能登思ふ明朝(あした)は雪と聞けばなほ(市川市)阿部弘子

★雪折や舐めて治せし腕の疵(八王子市)長尾 博

★山眠る狼の夢熊の夢(岐阜県垂井町)北嶋克司

★戦なき星を見上げてごまめ噛む(草津市)あびこたろう

 【評】戦争の神(マース)の名を持つ火星でさえ戦争はない。


◎大串章選

★冬の浪陸に上がりしゴジラ岩(鎌倉市)小椋昭夫

 【評】能登半島地震で地盤が隆起し、海に立っていた「ゴジラ岩」が陸続きになった。

★大小の水鳥湖水分かちけり(今治市)横田青天子

★亜紀偲ぶ歌の数々新年会(立川市)笹間 茂


◎高山れおな選

★愚者の夜をしろじろとして牡蠣の殻(東京都新宿区)各務雅憲

 【評より】飽食し酒が廻り、私は今「愚者」である、と。

★シャンプーの香のぷんぷんと猫の妻(伊万里市)萩原豊彦

★能登寒し龍のたうちし爪のあと(北九州市)安部大眞

★大寒や脳が欲しがるチョコレート(岡山市)曽根ゆうこ


◎小林貴子選

★グラタンを元気にしたるブロッコリー(札幌市)伊藤 哲

 【評】白色が基調のグラタン皿の中に、ぐっと目立つ緑色。

★自認するチキンハートや大試験(下田市)森本幸平 

★パレットもう洗ひ納めや山眠る(札幌市)樋山ミチ子

★涸れつつも水になほ行くこころざし(東京都足立区)望月清彦 

★ラグビーのボール立たせて後退る(浜松市)久野茂樹

★二つだけ白川郷のこもりがき(京都市)岡村紅里

 【評より】作者は十歳。

★浮草と薄氷の後朝とでも(岐阜県揖斐川町)野原 剛

★ヴィンテージロック子猫の踊り出す(敦賀市)中井一雄

◎馬場あき子選

☆草原の抱くモンゴルは平和なり弓(ノム)、馬(モリ)、相撲(ブブ)の文化を守りて(三浦市)秦 孝浩

 【評】広大なモンゴル草原でのくらしが育んだ楽しみ。弓による射的、馬術の競技、相撲などの文化をみれば、純化された楽土の相がみえる。

 ※佐佐木幸綱共選。

★焼酎を呑む日々なれど燗酒を今宵は飲まん「舟唄」思い(観音寺市)篠原俊則

☆姉が買うお守りはなんと縁結びはっと息を飲む母父私(富山市)松田わこ

 ※高野公彦共選。

★歌詠みを始めて四年こんなにも多くの感情捨てて来たのか(五所川原市)戸沢大二郎

★初もうで妹の願い多いのか大きいのかなかなか動かない(富山市)松田梨子

★日の射すも綿雪ふうわり降りくれば枇杷の花むらやわらかに受く(岩沼市)相澤ゆき

☆動くものなきアリゾナの荒野なる大岩割って初日昇り来(アメリカ)大竹幾久子

 ※高野公彦共選。


◎佐佐木幸綱選

★剣道のできる喜び噛み締めて冷たい床に足踏み入れる(京都府)片山正寛

★三木卓の詩集小説童話読み最後に読むは『日本の昆虫』(新潟市)浜田良男

 【評】詩人・三木卓への追悼歌。『日本の昆虫』は氏が好きだった昆虫へのかぎりない愛を記した一冊。

★湯たんぽの湯がわくまでの十分はスクワットする貴重な時間(町田市)河野奉令

★蜜蜂を借り来て放すいちご園ハウスの中の春は甘やか(三郷市)木村義熙

★したたかに酔へばぐるぐる回りだす唄は舟唄いまも昔も(東京都)浅倉 修

★コンビニでするめを買ってワンカップ今日はそれだけ亜紀さんをしのぶ(大和郡山市)四方 護


◎高野公彦選

★能登瓦守りて来たる半島の屋根屋根屋根よ屋根慟哭す(福島市)美原凍子

☆吹雪けども能登朝市のシートぬち温(ぬく)とかりしよや干魚(ひうお)を買いき(稲沢市)伊藤京子

 ※永田和宏共選。

★「この下に人間が居ます」と張紙し倒壊家屋の側で待つ家族(防府市)山口正子 

☆健さんが倍賞千恵子の居酒屋で聞いてた八代亜紀の「舟唄」(羽曳野市)玉田一成

 ※永田和宏共選。

 ※【永田和宏氏の評より】映画「駅 STATION」のーシーン。

★この世には飢餓死する人多いのに我ら囚人文句ばかり言う(アメリカ)郷 隼人

★正確に新しき時きざみけり傘寿祝いのデジタル時計(我孫子市)森住昌弘


◎永田和宏選

★避難所で追い込みをする受験生赤本を置くダンボールの上(出雲市)塩田直也

★男らしく女らしくはもう消えた人間らしくも危ふいものだ(紀の川市)橋本哲次


◎同ページに載っていた「うたをよむ」。「月並宗匠たちの句」(為永憲司)