⅖西日本新聞「西日本読者文芸」

◎俳句 秋尾敏選

★正月や金魚のポンプ母の靴 宮若 しまのさつき

 【評】正月の慌ただしいひととき。「金魚のポンプ」の不調は直さねばならず、「母の靴」は捜さねばならず。あえて三段切れにして畳みかけている。 

★成人の日に七人の戻る島 福岡東 馬場崎智美

★席とりの役も担へり冬帽子 久留米 溝上博子

★ポップコーンレンジに爆ぜる聖夜かな 宗像 伊熊悦子

★寒鰤に塩打つ握り拳かな 福岡城 犬山裕之

★冬ざるる待合室の無表情 日田 梅木眞知子

★予報士も着ぶくれてをりローカル局 宗像 川口茂則


◎俳句 星野椿選

★冬薔薇上手に齢重ねをり 宗像 川口茂則

★屠蘇の盃酌めば蒔絵の鶴が舞ふ 福岡東 堀江昭子

★恙なき暮らしに謝する昨年今年 太宰府 福永惠美

★紅梅や子に先立たれまだ生きる 対馬 神宮斉之

★足場組む若き鳶職初時雨 福岡西 重石活郎

★妻他界寂しさ募る除夜の鐘 福岡南 清水博之

★立春の光に弾む希望かな 太宰府 門谷とも

★遅れ来る客に湯宿の置き炬燵 糸島 上野純子

★風花の睫にとまる重さかな 太宰府 入江眞己子

★時雨虹阿蘇の五岳の空広げ 福岡東 下村幸子 

★湯疲れの柚子を引きあぐ終風呂 小郡 赤坂郁子

★元旦の言葉失ひゆく地震 糸島 春田美智子


◎短歌 伊藤一彦選

★元朝に水なし電気なし家屋なし道路もなしで涙もなしの世 八女 吉泉恒德

★避難所は芯から冷えん板張りで能登半島は大雪なりし 福岡南 福井幸子 

★日干しの鱈千枚地震になげ出されがれきの家に踏みしだかれる 大野城 高名 稔

★温かい汁を受け取り避難所の媼は言えりもったいないと 大野城 荒木洋子

★能登地震にテレビはあの日を繰り返す 逃げて 戻るな 命を守れ 糸島 森脇由利子 

★輪島塗りの朱の汁椀あの日より両手につつみ思いふかむる 福岡中 高島悦子 

★初明り同じ余韻を持つ人とまだまだ歩く力ください うきは 生野 薫 

★九十になりたる友は九十五の我に白きイチゴを土産に呉れぬ 川崎 刀祢日出子

★亡き犬のリード握りて歩く道いつもの時間いつものコース 八女 柴田眞理

★今はトルコ、カザフスタンか中国か帰省の娘の航路確かむ 志免 大久保容子

★アナログの時刻む音早くなり米寿を過ぎて一人晩酌 福岡城 白山 嵩 

★旅終へてのむコーヒーのあたたかし思ひ出じんわりよみがへりきて 福津 佐々木和彦


◎短歌 栗木京子選

★金沢の孫の揺れへの脅え聞き味せぬすき焼き食べる元日 福岡早 出雲一夫

★キャンセルの電話を入れる金沢にフロントマンも涙声にて 福岡南 福井幸子②

★石川に住む友の無事伝えらる一月二日のグループライン 福岡西 木村陽子

★ふるさとが地震ばかりか津波まで何という事言葉もなくて 大野城 高名 稔

★病室の窓に残りし孫の手形秋の日差しにじいじがんばれ 福岡南 藤永 稔

★ミャアミャアとか細き声で鳴く猫を飼ってはやれぬ老いの哀しさ 大牟田 柿川京子

★初詣おとなの背なに習いつつ幼なも合わす小さき手のひら 福岡早 松澤咲子

★十五年虫干し続けし亡き母の晴れ着きて行く二十歳の孫は 福岡早 市川登美榮


◎詩 平田俊子選

1月、いつもの温もり 神奈川 レオレオ


腕の重さを腹に感じて起きた。

いる。

ここに。

あなたはいる。

確かな重さを持って。

布団の上。

いびきをかいて眠っている。

横向きで眠っている。

暖かい布団の上。

布団の中の温かさはちょっと暑いくらいで。 

あなたの温かさが私を守っているような。 

ひげの生えた顔を触る。 

湿った感触。

だらしない弾力の頬を触る。

カーテンから朝日が漏れる、薄暗い部屋。 

鳥が鳴いている。

朝。

いつもどおりの朝。 

おはよう。