⅖毎日俳壇・歌壇。「遮断機の下りて寒さのつのりけり(麻生勝行)」他。
★鯛焼やサッカーの子も塾の子も 紀の川市 中島走吟
〈評より〉たい焼き屋の店先。
★御降や皇居の松の青々と 東京 関口昭男
★雪だるま子ども部屋より灯の漏れて 富士宮市 渡邉春生
★お互ひに老けたと思ふ日向ぼこ 伊勢市 藤井信弘
★溶鉱炉も親父もあらず春の雲 中間市 石田常夫
★赤提灯故郷の酒を燗で飲む 平塚市 原 道雄
★神の留守ココアの匂ふ巫女溜り 笠間市 伊藤邦夫
(西村和子選)
★禅林は門を閉ざして掛大根 大阪 池田壽夫
★白鳥のこゑうねり立つ夜明けかな 加須市 萩原康吉
★舗道とてつつけば餌あり冬雀 東京 望月清彦
★風に乗り風に後れて雪蛍 横浜市 菅沼葉二
★冬うらら庭をくるくる三輪車 飯塚市 倉田幸男
★冬の月逢はねば人の遠ざかり 小山市 岸 一泉
★蔵人は杜氏を信じ寒造 岸和田市 妙中 正
★勝独楽や男の子は今も収集家 島根 高橋多津子
★賑やかな声の聞こえる初電話 神戸市 岸下庄二
(井上康明選)
★双眼の凧りうりうと尾根越せり 名張市 中森祐紀子
★初競りの子牛ゆつくり歩みけり にかほ市 金 民子
★初句会自力の歩巾新たにす 福岡市 小出達夫
★冬麗やロザリオを掌に石畳 長崎市 音 超子
★物知りの氏子総代鳥総松 山梨市 浅川青磁
★水鳥の羽を転がる滴かな 湖西市 宮司孝男
★雪中のラグビー授業湯気上げて 東京 石川 昇
★マフラーが真つ赤や古稀の漢方医 町田市 枝澤聖文
★虚子とのみ墓石に刻し寒椿 神奈川 中島やさか
★親子鳩ねむる冬アパートの縁に 相模原市 富里泰男
(片山由美子選)
★教室のストーブ点けて生徒待つ 茨城 石川昌利
★遮断機の下りて寒さのつのりけり 諫早市 麻生勝行
★風花やしばらくは来ぬ路線バス 武蔵野市 渡辺一甫②
★乗り過ごし雪積む駅に降り立ちぬ 羽曳野市 鎌田如水
★微風にも押し戻されて冬の蝶 湖西市 宮司孝男②
★寒鯉の潜水艦のごとき影 小平市 中澤 清
★日溜りに一服しては大根干す 春日市 林田久子
★元日の静かに暮るる漁師町 神奈川 新井たか志
★終点はネオンなき町冬銀河 和歌山市 曽根澄子
★極月の渋滞またぐ歩道橋 奈良市 伊東 勝
(米川千嘉子選)
★投光器に浮かぶ救援の人々の厳しさやさしさ天に祈りぬ 朝倉市 山下 愛
★何故に喧嘩する時丁寧語七十路今も「ですます」でする 幸手市 中村早苗
★空襲の東京みたい独りごつ輪島の瓦礫に立つ女の声 京丹後市 山副美佐子
★あの屋根の耐える重さはどれ程かビニール傘に降り積もる雪 南魚沼市 木村 圭
★ガラス越しにて泣いている乳呑み児よあやしたいけど吾は感染 須崎市 野中泰佑
(加藤治郎選)
★そう言って彼はゆっくり腰をあげわたしの明日を永遠に去る 所沢市 神田 望
★雨の名をやたらと知っている友はただの天気を詩のように呼ぶ 大津市 世田夏雪
(水原紫苑選)
★北を向く信号はみなひび割れて町を逃げ出す気は起こらない 浜松市 尾内甲太郎
(伊藤一彦選)
★冬の夜に石牟礼道子ゆっくりと繰り返し読む若き日の吾と 一関市 相川元美
★剣太刀身にそわぬこの現今に原爆が身にそうことなかれ 沼田市 山崎杜人
★温もれる人の中へと帰り来てふるさとに尽きし命かなしき 東京 福島隆史