2/5読売俳壇・歌壇。


◎矢島渚男選

(矢島渚男選)

★寒月や練りたるごとく海黒き 神奈川県 大久保 武

★白鳥の鴨分けてゆく餌場かな 加須市 福田啓一

★まだ一人帰る子がいて雪を掻く 宮城県 梶原京子 

★この峡を冬日短く通りけり 養父市 本田 修

★喫水の深き船より雪放る 宇都宮市 大門とよ子

★古里に原子炉七基ある寒さ 川口市 高橋まさお

(高野ムツオ選)

★日の暮れて波の花のみ見えにけり 倉敷市 中路修平 【評】

★雪道にキャタピラの跡ウクライナ 東京都 東 賢三郎    

 【評より】除雪機のキャタピラの跡を通勤途上の足元に見つけた。その瞬間、ウクライナの戦車が脳裏に浮かんだ。

★雪積むや雪掻く人の頭(ず)に背に 高山市 直井照男

★孫抱へ羽子板抱へ笑ふ眉 東京都 神通芙美代

★大屋根に声掛け合いて雪卸し さいたま市 加治美智子

★狐火や村に消えゆく字小字 東大阪市 土屋鉄男

(正木ゆう子選)

★布を截つ柊の香の母の部屋 横浜市 矢沢寿美 

★跳ね炭を躱すことなき庵主かな 東京都 望月清彦

★山眠る牛伏すごとく登り窯 松戸市 早坂哲夫

(小澤實選)

★着ぶくれて二重の袖を捲り家事 横浜市 三好れいこ

★叩かれて太鼓よろこぶ小六月 佐野市 高橋すみ子 

★寒風にさらす身縮む露天商 松原市 中野武則

(小池光選)

★「初物じゃ」父が頬ばる焼きサンマ先週食べたことも忘れて 大津市 長田恵子

★友だちと話す時には「ママ」でなく「お母さん」と言ふ小五の女孫 藤枝市 北泊あけみ 

★杖ついてゆっくり歩く雪の道誰もがやさしく「気をつけてね」と 加茂市 田代旅子

★沈黙が怖くてひとりはしゃいでた別れの予感何処かで感じて 東京都 鈴木真理子

★正月はあっという間に過ぎてゆく孫三歳の一人舞台ぞ 仙台市 鈴木武志

(栗木京子選)

★子に負担かけじと常々おもえども四度も転んでどっぷり世話に 東京都 通力 紅

★移りゆく町を見守り百年の運河を祝ふ冬花火かな 小樽市 石田ちづる

★明るくてどこか悲しい唄声は真夜に聞える母のブギウギ 高松市 島田章平

★人なべて海より生れしと言いし友の散骨の日の湾は凪ぎいて 吹田市 辻井康祐

(俵万智選)

★来年のまだ上がらない幕として今年の残る暦一枚 東京都 武藤義哉

★日常と変はらぬ元日これもよしこの自由なる老ひの独り居 市川市 井田千明

(黒瀬珂瀾選)

★思いがけず夫を失い残像がいつもの朝にゴミ出しにいく 防府市 梁瀬則子

★夢と疑ふ息子の死なればこの九年夢に一度も見たることなし 吹田市 鈴木基充

★美しき名の市や町を載せる半島に冬の雨降る口惜しき雨 射水市 玄兎

 【評より】輪島、珠洲、穴水など。

★書き初めは「ツハモノ」なりき昭和十九年兄は志願し兵となりたり 野田市 青木作郎

★孫の描くじいじはおたずね者となりけんしょう金が2円は安い 伊那市 酒井夏枝

★ジビエたら小洒落たもんぢやないけんど冬は猪喰ふ村に生まれぬ 岩出市 西岡さちよ