⅖長崎新聞「郷土文芸」
★妻と子の墓にも初日射しをらむ 西海 原田 覺
★風渡る山並遠く春立ちぬ 長崎 森 昇
(評より)冬かすみのベールを風が持ち去り峰々があおく清澄に現れて…。
★一湾の光りさざめき月凍る 長崎 入口弘德
★人の世のざわざわすると寒鴉 長崎入口靖子
★ランドセルのコップ揺らして春を駆く 佐世保 相川正敏
★眼鏡替え糸通す母一葉忌 佐世保 小山雅義
★川上へ上る細波春来る 西海 森 篤
★乳母車双子を被ふ毛布かな 長崎 辻 耕平
★境内の七草粥の最後尾 長崎 小島茂之
★冬晴や犬のリードも伸びきりて 長崎 成瀬至楽
★病癒えし妻に歩合はす小春かな 長崎 島崎日曻
★味噌汁に石尊の香る里の朝 西海 楠本シヲリ
★初晴や松の引き立つ天守閣 島原 福本かつ子
★黙々と長竿動く若布刈り 佐世保 片岡忠彦
★被災地に想い万感水仙花 長与 清田俊二
★老い忘れ孫にかこまれ三ヶ日 松浦 永淵勝幸
★鬼やらひ夫八十の大声で 島原 伊藤育子
★屠蘇に酔ひ語らひ長し老の友 平戸 本川 誠
★赤い傘白い傘ゆく時雨かな 佐世保 松山茂則
★追伸に四女誕生賀状来る 五島 中村敏子
★恵方道遥か彼方に海光る 五島 田中裕子
★鯛焼の尾っぽほんのり塩の味 佐世保 岡田明美
★竹刀背に兄弟向かふ寒稽古 南島原 森野章子
【選者吟】大岩を抱く走り根春を待つ
◎歌壇 立石千代女選
★何しても被災地のことが気にかかるできることなど何も無き我 長与清田俊ニ
★並べられバキュームカーを待っている簡易トイレの雪に積む雪 長崎 志方雅一
★夕まぐれ氷雨の路地にほんのりと灯の点るごと黄水仙咲く 長崎 宮前周司
★湯上がりの二歳の孫は妻の待つバスタオルへとダイビ ングせり 佐世保 小山雅義
★厳しくて寡黙な父が母の名を呼び涙した出棺のとき 南島原 高木恵子
★内科医の診察受けてホッとする妻の顔見て吾もほほ笑む 大村 平松文明
★八十歳違ひのひ孫は入学とふ年金支給日会ふを決めたり 佐々 山本久子
★知るべきは地震(ない)の恐さよ子を四人失くしし父の慟哭を聞く 諫早 金子哲也
◎柳壇 永石珠子選 題「助ける」