⅔西日本新聞「ながさき読者文芸」

◎俳壇 籏先四十三選

★浜焚火問わず語りの耶蘇の浜 佐世保 森 誠

★初氷そつと触れたる手水鉢 佐世保 村上美佐子 

★万難の能登を癒せや寒椿 諫早 田中道着

★寒月の浦に鎮もる元寇船 佐世保 相川正敏

★戦場の瓦礫の街の冬帽子 佐世保 牛飼水鳥

★全力でもう走れない冬薔薇 島原 坂本優美子

★忘るること多く成りけり冬茜 諫早 石田志帆

★著ぶくれて愛憎もなき老夫婦 島原 野田耕起

★初みくじ恋は成就といはれても 佐世保 馬場定水

★道の子の小石で試す初氷 雲仙 伴 信彦

★芹を積む昔酒屋の水くみ場 佐世保 加茂宮宮江

★息白く朝の魚市動き出 佐世保 豊村正人

★鴨の陣崩れて戻りまた崩れ 対馬 神宮斉之

★初薬師五年きざみの余生かな 佐世保 川原豊子

★世の平和ただひとつのみ初詣 壱岐 深見秀子

★地の叫び天の警め虎落笛 諫早 篠崎清明

★左義長の役者が揃ふ消防団 大村 兵庫省三郎

★噛みしめど歯たよりなき蕪かな 佐世保 宮本由美子


◎歌壇 黒田邦子選

★とりどりの残り野菜で煮る雪花菜(おから)あて字に似合う仕上がりとなる 佐世保 弓削久美子

★ふくふくの曾孫見るたびガザの乳児のミルクやおむつありやと憂ふ 佐世保 小田美恵子

★うらめしや雪舞う坂の長崎は手すりふきふき階段下る 長崎 溝口健治 

★わが生命もうこれまでとおもいしに精密検査、治療で再生 佐世保 小田賢司 

★杖つきて毎日はげむウオーキング息子に貰いしダウンを羽織る 佐世保 松崎伸苑

★余生とは言わず未来と書きなおし自由時間を楽しみつくす 佐々 法本安子 

★つつましく静かに生きし母のごと水仙の花ほのかに香る 諫早 花岡壽子 

★眠れぬ夜チェッカーズの歌きこえおりいつしか合わせハモる八十歲 西海 田中加代子 

★喪のはがき見たと記して友三人われを励ます賀状くれたり 佐世保 小山雅義


◎諧句 松下冨士子選

★注連飾り施設暮らしの親思う 佐々 林エイ子

★古い葉を落とし春待つ梅の枝 諫早 前田良子

★断捨離にちょっと待てよとリサイクル 島原山口光子

★諧句欄作者の暮らし仄見える 西海 上野久美子

★避難者の苦痛に術のない絶句 南島原 板山良継

★節々の痛みなだめて動く日々 松浦 母袋トヨ子

★足腰を伸ばす湯船の至福どき 松浦 松浦靖子

★貰い泣き涙こらえるボランティア 松浦 舩原清洋

★お年玉貰った曾孫ハイタッチ 壱岐 市岡妙子

★来客にさざんか一輪さして待つ 壱岐 馬渡紘子

★継続は力と信じ辞書を引く 壱岐 砥綿 滿

★災害の幕明け術のない嗚咽 大村 野田昌治

★激震に抗う術の無い悲哀 大村 串崎洋一

★寒空に能登復興を祈る星 長崎 堤 貴美子

★待つ春の息吹き蓄え冬木立 長崎 荒井孝憲

★故郷のかんころ餅の香り着く 佐世保 山田テル子

★母の眼が潤む晴れ着の成人日 佐世保 牟田一彦

★観葉の植物せめぎ合う風呂場 佐世保 松崎伸苑

★別れぎわ帰省ひ孫と涙ハグ  島原 伊藤ミズエ