1/28朝日俳壇・歌壇。
【評】登龍門の伝説を踏まえる。冬の水をよぎる悠然たる 影。
※「登竜門の伝説」=中国の「後漢書」李膺(りよう)伝に、黄河の上流に竜門という激流があり、その下に多くの鯉が集まり、ほとんどは急流を登れないが、もし登ったら竜になる、と伝える。(転じて、立身出世のための関門を意味する)。
◎小林貴子選
【評】能登から寄せられた句。皆様にお見舞い申し上げたい。
★看護師の白衣五色や冬ぬくし(横浜市)前田なみき
【評】白衣といえど薄色、そこが素敵。
★弱くても吾は母親ぞ冴ゆる星(大阪市)長島敬子
★膝掛は重しと母の腿細し(国分寺市)野々村澄夫
★はつみくじ「この人とならうまくいく」(成田市)かとうゆみ②
◎長谷川櫂選
★御慶さへ憚らるる世になりにけり(市川市)をがはまなぶ
★在米の獄中歌人受く初日(浜松市)梶 まり子
★夫婦して時間長者やきな粉餅(長崎市)下道信雄
★爆心の空に横たふ寒銀河(長崎市)佐々木光博
◎大串章選
★激震や朝市の声凍てつきし(青森市) 池田毅
★香車めく師の一生や寒椿(京都市)室 達朗
★月光へ一歩踏み出す雪だるま(塩尻市)古厩林生
★大雪や独居の母は白寿なり(横浜市)坪田光世
★正月を真つ二つにし大地震(八王子市)額田浩文
★被災地の能登に無情の雪降れり(伊賀市)福沢義男
★震災後のローンがやっと終わったと神戸の喜寿の友の電話くる(宇治市)中西路子
【評】苦労を重ね、大震災から29年後にやっとローンを返済。
★紙の本、紙の新聞 アナログの言葉は真っ直ぐ心に届く(観音寺市)篠原俊則
☆悔しくて土俵に「さがり」を叩きつけいつも寺尾は輝いていた(甲州市)麻生 孝
※永田和宏共選。
★リヤカーを引きシクラメン売る農業高校生の年末の笑み(安中市)鬼形輝雄
★苦労(96)過ぎ苦難(97)の歳へ入りにけり難聴頻尿の寂しき元朝(東京都)青木久彌
【評より】作者97歳。
◎永田和宏選
★開館と同時に自習室へ行く受験の生徒の大きなマスク(札幌市)藤林正則
★母残し車窓に加古川見ゆる頃春の夕べを雪降りはじむ (横浜市)井上優子
◎馬場あき子選
★サンタさんに蜥蜴ねだりし少年は獣医めざして今受験生(東京都)唐木よし子
★ヤドリギを採ってもらって口にせし遠き思い出山仕事の日(亀岡市)俣野右内
★阿炎(あび)が泣く子どものやうに阿炎が泣く師匠寺尾に別れを告げて(八尾市)水野一也
★パーティーで裏金つくる政治家と炊き出しを待つ人がるる冬(浜松市)松井 惠
★屋上に小鳥を咥えし鷹が来て羽毛飛び散るマンションの庭(つくば市)藤原福雄
◎佐佐木幸綱選
★供出の梵鐘の証拠を写しありもんぺ姿の幼き叔父と(東根市)庄司天明
★兄妹に会うと長女の顔になる母が毎朝するスクワット(さいたま市)栗田幸生
★手袋を外す所作から演奏の始まっている街角ピアノ(南魚沼市)木村 圭
★ダウンの子寸時を惜しみ腕を組む週一に会うリハビリ通い(諫早市)井石昭子
★産卵場目指して泳ぐ鮭の群れ憑かれたような目つき顔つき(江別市)長橋 敦