1/22毎日俳壇・歌壇。
(井上康明選)
★能面をはみ出す貌や月冴ゆる 北本市 萩原行博
★赤土の地肌をさらし山眠る 藤枝市 山村昌宏
★寒風に顔殺がれゆく大野かな 富士市 後藤秋邑
★笑ひ声本堂に満ち初法話 甲斐市 松田健嗣
(片山由美子選)
★バスを待つ列の寒さに加はりて 川口市 高橋さだ子
★屋根裏に上つて下りて年の暮 加古川市 中村立身
〈評〉正月にしか使わないものを屋根裏にしまってあるのだろう。それを出すのが一仕事なのだ。
★廃屋にのこる表札枇杷の花 北九州市 篠原敬祐
★夕時雨たちまち闇となりにけり 池田市 後藤和豐
(小川軽舟選)
★巌頭の僧院灯るクリスマス 岡山市 三好泥子
〈評〉クリスマスでにぎわう世間とは遠くへだたった地で祝われるキリストの誕生。僧院の敬虔な暮らしが想像される。
★貧乏にぬくもりありし隙間風 川越市 峰尾雅彦
〈評〉たとえあばら屋でも家族が寄り添って暮らせたぬくもりがなつかしいのだ。
★煮凝りや父に捨てたる故郷あり 西尾市 金子恵美
山間(やまあい)に差し入る朝日猟期来る 八王子市 野島乃里子
(西村和子選)
★着ぶくれて妻は優しくなりにけり 奈良市 上田 秋霜
〈評〉若い頃はきびきび働いていた奥さん。着ぶくれの姿は年齢や丸みを表している。70代後半の作者の人生の感慨。
★床を蹴るナースシューズや去年今年 南魚沼市 木村 圭
〈評より〉大みそかも正月も緊迫した時間が流れる病院。
★鯛焼を買つて帰れば妻の留守 千葉市 笹沼郁夫
★山門の扁額いぶす杉焚火 神奈川 新井たか志
★レシートも栞の一つ古日記 前橋市 松本 潤
★バス停の数字まばらに探梅行 さいたま市 根岸青子
(伊藤一彦選)
★はじめての輪島の夜の炊き出しはトルコ人のボランティアとふ 鹿嶋市 大熊佳世子
〈評〉震災直後にトルコ出身のボランテアたちが愛知県から駆けつけ温かいスープを配ったというニュースに感銘しての歌。
★若い日は年の暮れさえ旅の宿 能登半島で聞きし八代亜紀 沼津市 本田影二
〈評〉かつての能登の旅を回想しての歌。八代亜紀の訃報により悲しみを増しながら。
★どんくさい吾に似てゐる潮まねき片手のでかさに弱音をみせぬ 東京 池崎富実夫
★人の言う「さもなければ」の言葉には鋭い刃のような冷たさ 堺市 初夏みどり
★クリスマスセールで銃が安い国ケーキの横で餅を売る国 名古屋市 外山 雪
★BGにフランス組曲流しつつ古今集の入門書読む 上尾市 清水昇一
(米川千嘉子選)
★「でも、それは仕方なかったことだよ」と君に言わせる私の狡さ 横浜市 友常甘酢②
★駐輪場ハンカチ出して涙拭くサドルも拭いてもう泣かないぞ 村上市 杉江正子
★行方しれぬアフガンの子らのカレンダー求め友らに配るはがゆさ 習志野市 太宰明子
★雨の道に転びしわれに降り注ぐ雨より激しい言葉に打たる 仙台市 小野寺寿子
(加藤治郎選)
★鼻啜り泣いているのね真夜中を電話越しでは抱きしめられない 川越市 松永 渚
★新機種は電話に掃除機ついている吸われて消える私の時間 静岡市 海瀬安紀子