1/22読売俳壇・歌壇。
★朝六時猟師仲間は山に散り 和歌山市 針谷国光
【評】朝六時に集合、そしてそれぞれの位置へ向かって出発する。誰一人遅刻する者はいない。規律を守れない者は狩猟には不適なのだろう。いまや狩りは地域にとって重要な役割になった。
★再会の手袋咥へ脱ぐ握手 久喜市 深沢ふさ江
★雪だるま傾げた首を直しやる 一関市 高橋紗千子
★東山角曲がるたび除夜の鐘 京都市 吉田基子
★教へ合ひほめ合ひ笑ひ日向ぼこ 別府市 本藤宣子
★余生なる域に逆らふちゃんちゃんこ 千葉市 森田千代子
★考へずゐて無になれず日向ぼこ 熊谷市 間中 昭
★残党の年忘れかな呑めねども 東大和市 板坂寿一
(高野ムツオ選)
★戦争に戦争重ね年暮れる 高松市 島田章平
★山細り痩せて冬眠儘ならぬ 国分寺市 野々村澄夫
【評】木の実がなくて、とにかくお腹が空く上に、温暖化とかで変に暖かい。どうにも冬眠できないと熊に成り代わって嘆いているのである。
★初雪や座敷にひびく花鋏 松山市 三木須磨夫
★応へなきものと語りて霜の夜 茅ヶ崎市 清水吞舟
★風花や朝餉の白湯をよく噛んで 佐野市 高橋すみ子
(正木ゆう子選)
★ごみ出しと犬の散歩の年暮るる 川越市 益子さとし
★雪の質足に聴かせる家路かな 青森市 前田亨静
★補聴器を外せば唸る冬籠り 西東京市 高科謙称
★鉄棒を見るだに寒し子を葬る 東京都 天地わたる
★獲物から羽噴き上ぐる鷹の狩り 旭市 斉藤 功
★哀しみも寂しさもなし寒北斗 八王子市 梅沢春雄
★七度目の辰や五臓に寒の水 多摩市 高野伸二
(小澤實選)
★薬喰営業課女子四人組 志木市 谷村康志
【評】営業課の女子の四人組が、肉鍋を囲んで忘年会をしている。酔うにつれて、課長の悪口も出るか。全部漢字で入り込めない感じも出た。
※これは傑作!題材も面白いし、「薬喰」の本意をよくわかってらっしゃる。
★闇汁や私の箸はかたきもの 唐津市 室井加代子
※説明的でありますが「私の箸にかたきもの」、がわかりやすいとおもいました。
★店頭にからすみ干して小料理屋 大阪府 池田寿夫
★生き長らへ我も埃ぞ冬銀河 羽曳野市 鎌田 武
★底冷えをやんはりほぐし京ことば 東久留米市 福西りん
★十台のロボットもいて煤払 新潟市 古泉浩子
(小池光選)
★ゆるやかな坂道なのに息が切れ秋の扇風機のように寂しい 横浜市 森 秀人
★壊れゆく脳持つ母は突然に仁王のような顔で怒りぬ 西東京市 佐々木節子
★新聞に載りし吾の歌読みし孫やばいと言いぬほめ言葉らし 福島県 黒沢正行
★薔薇の字をやっと覚えた嬉しさにもう一度かく起き抜けに書く 佐世保市 鴨川富子
★白髪の息子も席をゆづられてしどろもどろに礼を言ひをり 岡山市 前原和子
(栗木京子選)
★燃え盛るほのおの迫りたりし道二十九年経て寒木瓜の咲く 神戸市 大浜義弘
【評より】1995年1月17日の阪神淡路大震災から29年。
★八十四歳革手袋を新調す共に長持ちせんと願いて 上尾市 清水昇一
★からすうり一つ残りて藪にありこれが見納め春には宅地 宇土市 三浦清美
★貝殻に入りし皸軟膏をすり込む母の記憶今でも 霧島市 内村としお
★来春の椎茸の仕事に切り倒す櫟二百本 株を残して 竹田市 佐藤政俊
★子に戻りつつある父を子のいない我が必死で探すデパ地下 大阪市 鷹取真子
★旧姓の筆名の短歌投稿す母さんがいつか忘れる前に 広島市 工藤昌子
(俵万智選)
★母さんの刻む野菜はちいさくてあたしをちゃんとこどもにさせる 横浜市 紺屋小町
(黒瀬珂瀾選)
★変わった とあなたは嘆くふるさとを鑑賞会のように歩いて 八王子市 吉村のぞみ
★亡き夫も居たならと聴くノクターン秋保の宿のロビーに流れて 宇都宮市 佐藤順子
※秋保(あきう)温泉は宮城県仙台市にある。演歌に千葉一郎の「秋保の宿」があるが…。「ノクターン」とは夜想曲。
★スーパーのレジに列なす老夫婦に労り合える歳月が見ゆ ふじみ野市 小林久枝
★柚子たわわかって吾が家に飼われたる征きて帰らぬ馬の小屋跡 前橋市 平林 始
★少しづつ嫌ひなものの増えてゆく吾子の茶色き皿を洗へり 金沢市 塩本 抄
★ペルーより来たと男は法面の草を巧みに刈りて行きたり 日野市 那須真治
★苦しみに耐へがたき夜は独房に母の手紙を繰り返し読む 山形市 新垣ちのは
◎年間賞、俳句①。俳句②掲載後にまとめて投稿予定。