1/21朝日俳壇・歌壇。

◎大串章選

★泣初の赤子を抱いて初笑い

(相模原市)松尾 貢

 ※季重なりですが、大串さんは《「泣初」と「初笑い」の取合せが好い》と評の中に書いておられました。

★一月や死語を楽しむ同期会(香芝市)土井岳毅

 【評】昔馴染の同窓会、みな年取ったのだ。「死語を楽しむ」がおもしろい。

★スタートは思ひ立ちし日大枯野(仙台市)柿坂伸子

 【評】爽やかな即断即決、「大枯野」も何のその。「思い立ったが吉日」という成句もある。

★卒寿なほ迷ふ日のあり西行忌(八王子市)徳永松雄

 ※「西行忌」=西行法師の忌日。円位忌とも言う。建久元年(1190年)2月16日。73歳。23歳で出家。「ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃」と詠み、かねてから釈迦入滅の日に死ぬことを望んでいた。そのため、忌日は実際の忌日よりも1日早い旧暦の2月15日とする。西行忌の例句に「西行忌我に出家の意(こころ)なし(松本たかし)」がある。

★国境に戦車一台除夜の月(静岡市)松村史基

★星飛ぶが如く一瞬去年今年(長崎市)下道信雄

★願ふより決意を誓ふ初詣(石川県能登町)瀧上裕幸

 ※そうですね、祈りは「意宣り」、決意を宣言すること。

★忘年会を望年会に変へてゐる(糸島市)小川雄峰

★悪友と縁を切れずに年賀状(新庄市)三浦大三


◎高山れおな選

★初日影巻き込みて波寄せにけり(東かがわ市)桑島正樹

★息白き馬や我らや古都を行く(ドイツ)ハルツォーク洋子


◎小林貴子選

★地震・津波・空港惨事・まだ二日(東大和市)板坂壽一

★雪は嫌なのに初雪待つ不思議(金沢市)飯野日々子 

 【評】金沢市からの投句だが、これは地震前の作品と思う。

★嚏まで可愛き人でありにけり(静岡市)松村史基

★元旦のきれいなねぐら動物園(小平市)原田昭子 

★柚子風呂にややがあひると遊ぶごと(新居浜市)越智勝利

★三度目の正月犬はもう大人(藤沢市)青木敏行


◎長谷川櫂選

★女湯にこどもの声の柚子湯かな(川崎市)小関 新

★一茶とは愛の人ならむ小正月(さぬき市)鈴木幸江

 【評】愛も憎しみも何はばからず句にした人。まちがいなく「愛の人」。

★孤独との付き合い方を日記買ふ(富士市)松村敦視

★禿頭といふ潔さ初鏡(須賀川市)伊東地肌

★男には好かれる男餅を搗く(栃木県壬生町)あらるひとし

★暦だけ年越す様や侘び住まひ(長崎市)下道信雄②

 【評】暦だけが新しい。この簡素さこそお正月。

◎佐佐木幸綱選

★白息の男の子らのハイタッチ一人ふたりと増える通学路(小城市)福地由親

★小鳥でもひとのみできそうな固形物を夫が汁椀にのこす無念さ(盛岡市)山内仁子

☆牡蠣のパスタやさしい海の味がして今日の夕餉は夫の当番(大阪市)多治川紀子

 ※高野公彦、馬場あき子共選。

☆戦争のニュースを消して出立す広島へ修学旅行引率(湖西市)佐藤きみ子

 ※高野公彦共選。


◎高野公彦選

★高一の大震災を胸に秘め大リーガーの頂点に立つ(東京都)椿 泰文 

 ※大谷翔平選手のことですね。

☆手を振れば手を振り呉るる運転士子らははしゃぎぬ三鷹跨線橋 (武蔵野市) 山口京子

 【評】太宰治ゆかりの跨線橋の取り壊しが決まり、その前に見学に来た子ら。

 ※永田和宏共選。

★少年がテントの母を守るため素手で溝掘る雨季のガザ地区(中津市)瀬口美子 

★図書館船の就航を待つ瀬戸内に浮かぶ小さな島々の子ら(観音寺市)篠原俊則

★五葉松の剪定終へし老庭師彫像見入るごとくに立てり(多摩市)柳田主馬 

☆エサ用のメダカは一びき十五円食べられる日を知らずに泳ぐ(奈良市)山添聡介

 ※永田和宏共選。


◎永田和宏選

★そう言えば太宰治の在りし日のその跨線橋わたしも渡りし(我孫子市)松村幸一

★さり気なく余命告げらる主治医より入院手術の説明のあと(栃木県)川崎利夫 

★往年の女優が微笑むホーローの看板掛かる村の雑貨屋(大阪市)渡辺たかき 


◎馬場あき子選

★小鳥にも師走はありて五十雀せわしく樹皮に木の実を隠す(石川県)瀧上裕幸

★オルゴールのねぢを幾度も巻いてくれた父の手偲ぶ眠られぬ夜は(大和市)澤田睦子

★袈裟懸けに抱けばわが名を忘れたる父笑いつつ抱かれおりたり(垂水市)岩元秀人

★目に見えぬほどの高速回転で突つ張り切った関脇寺尾(八尾市)水野一也