1/17朝日新聞(地方版)俳壇。田中俊廣選。荒巻洋子さんにラインで送っていただきました。

★「暫(しばらく)」と大見得を切る寒牡丹(佐世保市)渡久地弘子

    (評)歌舞伎十八番の演目に、寒牡丹の清純華麗な美を例えているのが斬新。主人公荒事(あらごと)役が「暫く」と声を掛け、悪人達をこらしめる。舞台の大見得の緊張感と、力を蓄え冬に凛と開く花の容姿は精妙に響き合う。 

★クリスマス反核署名の女学生(諫早市)麻生勝行

    (評)クリスマスは降誕祭。本来は神聖な行事だが、日本では華やかな祭り気分が強調される。その中で女子高生(大学か)はひたむきに街頭活動を。ロシアやイスラエルによる空爆など核の危機は高まるばかり。 

★老いたとて丸くはなれず花柊(西海市)笹山恒子         

    (評)俳句は季語の働きの深さによってテーマがくっきりと浮上。柊は冬、芳香を漂わせ白く小さな花を咲かせる。一方で葉の縁には刺が。花のように清楚で温和に生きたいが、鋭さは消えない。またそれが活力に。 

★児のリボン咥へ飛び去る寒鴉(長崎市)神畑あこ 

★四世紀迎へし城や淑気満つ(島原市)宮崎和夫

★初日記一文字目より誤字記す(西海市)田川育枝

★地球ごと世界遺産に柚子湯の香(東彼杵町)林 直孝

★怪獣の名を言はさるる読初(長崎市)江島敏子

★一人とて予定はあまた新暦(島原市)川内澄江

★積ん読の背(そびら)の日向ぼこりかな(大村市)森 径子

★踏み場なき銀杏落葉の土俵かな(対馬市)古藤 定

★風呂吹や戦火のニュース聞きながら(長崎市)古賀野成子

★普通こそ大切なりと去年今年(対馬市)神宮斉之

★焼き芋を分け合ふベンチ四人掛け(壱岐市)長岡登志江

★おだやかに暮るるや十二月八日(西海市)前田一草

★レノン忌の父と語らふFコード(長崎市)團 俊晴

★波郷忌の孟宗宙を掻くばかり(佐世保市)荒巻洋子

 ※波郷忌=石田波郷の忌日。忍冬忌、風鶴忌、惜命忌。11月21日。「馬酔木」編集部を経て「鶴」創刊主宰。戦後は胸部疾患のため療養生活を送り、昭和44年没。56歳。墓は東京深大寺にある。

★百歳の母も女の初鏡(波佐見町)川辺酸模

★御無沙汰の葉書に描く冬すみれ(長崎市)井上映子

★小春日糸の通らぬ針の穴(長崎市)山本和子

★寒風を受けて流して古希を生く(長崎市)山崎京子

★生きてるつて良いねとぼつり冬童(諫早市)西宮三枝子

★山茶花や吾が退院に二輪咲き(長与町)佐藤 剛

★切干を茹でつつ背には愚図る嬰(小値賀町)中山(名前不明)

★殉教の丘を明るく花柊(諫早市)東内美智子

★冬枯れや解体さるる友の家(長崎市)深浦龍二郎

★戦争の隣で食す十二月(西海市)山下敦子

★冬晴れの朝はあれこれ鉢移動(長崎市)本田(名前不明)

★凍星となる戦死者の数多なり(長崎市)中島則子

★パステル色の毛糸帽編む喪の友に(長崎市)野中ルリ

★みちのくの旅で加はる牡丹焚き(佐世保市)小山雅義

★雪被り熔岩山威儀を正しけり(島原市)馬場富治

★妻祝ひ束にし贈る黄水仙(佐世保市)臼井(名前不明)

★父母逝きて故郷遠く雪ぞ降る(諫早市)中野久夫

★極月のカフェに流るる第九かな(佐世保市)光武正義

【選者吟】青きドナウを少年合唱年新た