1/15読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★鶴の湯の富士山仰ぎ御慶かな 福島市 引地こうじ

★初売りと初買ひ気合計りをり 葛城市 二上三六

★新しき下着をそろえ除夜の鐘 赤磐市 黒岩博美

★道具箱担ぐ人生年の暮 高砂市 池田喜代持

★孫が書く数字逆書き鵙日和 和歌山県 助野貴美子

★白毫を恐る恐るに煤払ひ 柏市 川浪 勉

(高野ムツオ選)

★問へはただ今は昔と都鳥 東大阪市 木田博幸

 【評】在原業平になった気分で隅田川の都鳥に「名にし負はばいざ言問はむ」と問いかけたなら、「それはもうとっくの昔のことです」とつれない返事が来たという換骨奪胎の作。

★二冊目の母子手帳受く冬日和 春日部市 相沢明子

 【評】二人目の子供が授かった幸福感に満ちている。冬日和の中、これからまた母と胎内の子どもだけの新しい月日が手帳に記されてゆく。 ★陽を見つめ星に目つむり冬木の芽 狭山市 小俣敦美 

 【評】すっかり葉を落とした梢の無数の冬芽。一つ一つが、生まれたての赤子のようである。

★菊人形夕日染込み色増せり 岡山市 押目光世

★冬空の青し他郷に母焼いて 大阪市 今井文雄 

★木枯しや画鋲ばかりの告知板 泉佐野市 高松良子

(正木ゆう子選)

★十二月戦禍逃れるロバ静か 流山市 大高弘照

 【評】クリスマスも新しい年も来るというのに、最低限の荷物をロバに積んで、住み慣れた土地から逃れる。何も知らず、いつものように静かな目をした平和なロバ。人間だけが・・・。

★鬼柚子をながわるばかり十日ほど 東京都 寺岡芙聖子  

 【評より】あまりの大きさに恐れをなして…。文旦の仲間と聞けば、なるほど。

 ※鬼柚子は柚子の10倍ほどの大きさ。縁起物で、獅子や鬼が邪気を祓うからとか、実が大きいことから実入りが大きい、とかと言って人気がある。

★稲屑火(いなしび)のけむり遠近阿蘇の底 福岡市 後藤啓之 

★一升を一日かけて柚子しぼり 京都府 山田国雄

★竹切りの道具小脇に霜の径 熊谷市 馬場国夫

(小澤實選)

★冬晴や水上バスの水しぶき 前橋市 山本 亨 

★調律の黒鍵連打十二月 流山市 高橋郁代

★欠けし翅をさめきれずに冬の蠅 浜松市 野畑明子 

★寒鰤の尾を持ちずんずんと帰る 伊勢市 藤田ゆきまち 

★県道のうどん自販機月冴ゆる 春日部市 桜井俊治

★酔李白欲しがりさうな寒の月 茅ヶ崎市 西岡青波

★夫選ぶ小さく甘き蜜柑かな 川口市 蓮田陽子

(小池光選)

★受かったよ孫のラインに病院の待合室でガッツポーズす 東京都 関 雪子

★「海ゆかば」歌い英霊迎えたる少国民われ八十路を越えぬ 埼玉県 真下杏子

★水着など持たない母は子供等と岩場の陰で裸で泳ぎき 狭山市 奥薗道昭

★わが行きしガザの賑はひよみがへる泉が湧きて砂漠潤せり 市川市 安田 恭子

★お生れはどこですかと問われれば牡丹江ですと涙ぐむ我 東京都 佐藤正子 

★箸使いのきれいな君と共に生き今は静かな老後を送る 伊勢市 浜口佳津美

(栗木京子選)

★取り組みに炬燵の脚を握りたる父想い出す九州場所よ 松江市 三方純子

★団塊の世代のしっぽも古稀過ぎて集へば老いゆく不安など言ふ 安中市 佐藤志乃 

★甥の子が箱根駅伝の先導すと白バイ乗務の知らせいただく 相模原市 荒井 篤 

(俵万智選)

★水換えを引き継ぐ人はいないから花瓶を洗う退職の朝 大和郡山市 本田 岳

★なにもかも否定する子にそっと出すふたつ並べたリンゴのうさぎ 船橋市 矢島佳奈

★教室の窓より光差し込みてツル折る君は子等の輪の中 奥州市 境 朝子

(黒瀬珂瀾選)

★コンビニのおでんごっそり買い行けば明日通夜の家少しぬくもる 滝沢市 小田佐枝子

★子とはそれ未来の調ひよ紛争の瓦礫の間に本を並ぶる 藤岡市 丸山直樹

★ガソリンがなければロバで退避するガザの人等の果てなき道程 大阪府 平山澄恵

★犬連れの人ら犬より楽しげに夕焼けのなか輪を作りおり 小平市 栗原良子


◎年間賞短歌②

年間賞は、俳句まで全部出揃いましたらまとめて投稿します。