1/14朝日俳壇・歌壇。

◎長谷川櫂選

★凩やまた新しき摩天楼 (東京都目黒区)西村嘉禮

 【評より】次々と建つ超高層ビル。

★火の神の舞ひはしづかに夜の神楽 (春日市)宮原孝一

 【評】火の神だからいい。「しづかに」が生きている。

★風花やアンデルセンの世界より (松阪市)石井 治

 【評】「白鳥の王子」「雪の女王」、いろんな童話を想像したい。

★憤然と冱(さゆ)る姿や今朝の富士 (東京都文京区)片岡マサ

★大根の次も大根おでん鍋 (東京都足立区)小山公商

★枯草の吹かれて己が音を出す (厚木市)北村純一

★しつこくも一匹の蠅日向ぼこ (高崎市)本田日出登

★まつたうな社会はいづこ寒鴉 (本巣市)清水宏晏

★老の春酒一合のわが命 (青梅市)市川蘆舟

 【評】一合の酒で幸せ。人は本来こんなにつつましい。


◎大串章選

★しぐるるや安住敦が改札に (名取市)相澤ひさを

 【評】安住敦の代表作「しぐるるや駅に西口東口」を踏まえる。懐かしい。

★冬木立鳥のジャングルジムと化し  (一関市)砂金眠人

★ウクライナよりの嘆きか虎落笛 (今治市)横田青天子 

 【評】虎落笛の響きにウクライナの悲劇を聞き取り、一日も早い戦争終結を心より願う。

★流星の一瞬を待つ寒さかな (箕面市)櫻井宗和

★墓といふ最後の家よ冬銀河 (寝屋川市)今西富幸

★落葉風フランスデモをたのしみぬ (帯広市)小矢みゆき

 ※「フランスデモ」=手をつないで道路いっぱいに広がって行進するデモ。 日本では、昭和35年(1960)の安保反対闘争で初めて行われた。

★卒寿なほ励む筋トレ年暮るる (敦賀市)中井一雄

★山眠る如何なる夢の中ならん (昭島市)大関崇央

★綿虫へはなしかけたきことひとつ (高砂市)冨田 卓 

★無住寺の鐘は撞かれず大晦日 (名古屋市)池内真澄


◎高山れおな選

★寒卵割る音続く大広間 (いわき市)岡田木花 

 【評より】ユニークな着眼。何やら昭和の社員旅行みたいである。

★骨格の危うくなりぬ冬籠 (東京都文京区)夏目そよ

 【評】「骨が」ではなく、「骨格の」としたことによりイメージ性が生じた。

★庭隅に鳥の運びし実千両 (町田市)河野奉令

★寒昴七億ドルの孤高かな (岡崎市)沢 博史

 ※大谷翔平選手の年俸総額が10年7億ドル。

★むきりんごなかのひとつがうさぎりんご (杵築市)長野なをみ

★短日の午後は逆算して使ふ (泉大津市)多田羅初美


◎小林貴子選

★冬病棟ハンドベル隊到着す (厚木市)大野へんろ

★短日やつかぬ諦めつけるべく (苫小牧市)齊藤まさし

 【評】諦められない思いはあるが、日暮れが来るのでリセットとしよう。

★冷えてゆく夫と訣別献体車べつ (東京都練馬区)橋本栄子

★銃の音子供の涙冬の川 (浜松市)シュエイィアウン

★傷多き往診鞄木の葉髪 (いわき市)佐藤朱夏

◎馬場あき子選

★周庭氏の亡命に知る生れしより我がもつ自由の意味と重さを (観音寺市)篠原俊則 

 【評】香港の民主活動家・周庭さんのカナダ亡命を報じたニュースで、氏が再び香港には帰らないと語ったことに触発され、「自由」の意味を改めて噛みしめている。

☆子の髪型(ヘアー)ウルフカットというらしい顔はウサギに似ているくせに (朝霞市)岩部博道

 ※佐佐木幸綱共選。

★全盲で厨に立ちて料理する闇深き世界に立ち向かふ人 (厚木市)藤本信雄

★荒海を突いて寄せ来る鰰を漁師ら待ちて荒声高し (仙台市)成田一紘

★北極の一角獣から水銀が検出される病んでる地球 (石川県)瀧上裕幸

★働きし手を見せ合ひて日向ぼこ妻と二人の農五十年 (匝瑳市)椎名昭雄

☆嗚呼3回目の年賀葉書も12号病棟のわが子へ出すのか (三浦市)秦 孝浩

 ※永田和宏共選。

★時雨降る中を働く影黒く地吹雪防ぐ柵立ててゆく (山形市)小林武子

☆横雲が教室中に広ごりて定家と眠る五限の古典 (西条市)村上敏之

 ※高野公彦共選。

 ※定家の名作「春 の夜の夢の浮橋とだえして峯にわかるる横雲の空」を教えても、生徒らは居眠り(高野公彦評)。


◎佐佐木幸綱選

★野の草をあの子この子と呼びながらスケッチ描きし甲斐信枝さん (長崎県)稲垣妙子

 【評】11月30日に93歳で他界された絵本作家・甲斐信枝さん追悼の作。人柄がしのばれるような一首。

★岸上大作の生家址なる叢に卵を温めゐる禽のをり (兵庫県)札場秀彦

 【評】岸上大作は六○年安保のころ活躍 ・自死した学生歌人。彼の死後、私も兵庫県のお宅を訪れたことがあった。

★武家屋敷跡の薦(こも)掛け始まりて冬色となる金沢城下 (石川県)瀧上裕幸②

☆母は昔京都の住人「変わったな」と言いつつ生き生き道案内する (富山市)松田わこ

 ※高野公彦共選。

★枠外にシールなど貼りにぎやかな五年日記も終わりに近づく (兵庫県)福本 都

★鷗飛ぶ監獄の空晴れ渡りサッチモの歌を口遊むかな (アメリカ)郷 隼人


◎高野公彦選 

★知覧茶を飲む開戦日 知覧とふ特攻隊の飛び立ちし場所 (南相馬市)水野文緒

 ☆ガザはガーゼの語源と知りてかなしみのいや増す街よ破壊のつづく (香芝市)関口光子 

 ※永田和宏共選。

 ※「ガーゼの発祥地はガザという」(高野公彦評)。「ガーゼの語源を持つ町で、常にガーゼなどの医療用品が足りない状況に」(永田和宏評)。

★クリスマス・キャロルを合唱せしチャペル多人種混合のミサのお祈り (アメリカ)郷 隼人②

★「ゲルニカ」を描きしピカソの怒りもて我も詠はむ世界の無道 (水戸市)檜山佳与子

★玄関に夫の表札と傘二本わが家守りも長くなりたり (青森市)皆川幸子

★日本語は運転手さんと私だけ河口湖発新宿行きバス (富士吉田市)武藤栄子


◎永田和宏選

★ウケグチノホソミオナガノオキナハギ最長魚名は最短詩型 (八王子市)額田浩文

★ほんとうは羨ましいのよひとりよりふたりがいいに決まつてゐるわ (豊中市)夏秋淳子

★「春夏冬(あきない)」の屋号にふらり熱燗と酢牡蠣でちょっと秋の道草 (大阪市)岡 洵子

★また来てるさくらカットの耳の猫どうやらうまく鳴けないらしい (岐阜市)原 純子

★むさし野の柞(ははそ)の森のもみじ葉のふり積む音の中に逝きたり (蓮田市)斎藤哲哉


◎先週に引き続き、今週は歌壇賞が発表されていました。

歌壇賞はまたページをあらためて投稿したいと思います。