1/12山梨新報「しんぽう文芸」。山梨の句友、田辺義樹さん報。

◎柳壇 坂田よし江選

★歳重ね顔も背中も丸くなり 大月 鈴木民生

★ペアルック箪笥の底に眠ってる 甲府 風間なごみ

★耐え抜いたドラマを語る節くれ手 東京 久宗明子 

★いつだって耳傾けてくれる友 富士川 依田正男

★”物言い”を並べたくなる事ばかり 富士吉田 田辺義樹

★来年の収穫願いお礼肥い 山梨 河野英俊

    「お礼肥い(おれいごい)」=礼肥。収穫の終わった果物の木に、栄養を取ってもらうために肥料をあげること。

★空き家朽ち過疎の歴史を物語り 市川三郷 一瀬文男


◎歌壇 袮津達子選

★朝の陽を背中にうけし親と子の大鯨雲富士山越ゆる 甲府 内藤勝人

    【評より】写真愛好家だったらしい物語を感じさせる一枚のような歌。

★三十錠の薬頂き三十の約束したよな年末の道 富士吉田 中村 蓮

★川沿いをユラリ飛び立つ水鳥の伸ばした脚に滴る生気 甲府 小林 衛

★痴話喧嘩の最中のチャイム時の神宅配便で届くシクラメン 甲斐 松田健嗣

★孫の顔一人ぐらいは見たいもの本音は言えずそっと胸中に 甲府 小尾康弘

★駿府城広いお堀に屋形舟往時を偲ぶ高き石垣 甲府 天野 正

★捨て駒の人海戦術に駆り出され野垂れ死にする兵士ら哀れ 甲府 高瀬孝人

★静かなる告白に似てコスモスが花を寄せ合い又離れゆく 南アルプス 山久豊寿

★鬱を病む友の電話の声に知る回復のきざし満天の星 大月 沢登かほる

★お隣の白い山茶花咲き揃い小春日和に干し物揺れる 甲府 小林豊子

★友人の個展手伝いし数日を夫は熱く熱く語りたり 埼玉 所 富子

★OB会互いの健在喜びて皺も気にせず交わす笑顔で 甲府 遠藤俊子

★灯ともし家族みんな集う夢涙にぬれて目覚めたる朝 中央 新藤秀子

★何時の間にかリハビリに通う弟よめげるは駄目と遠距離電話 市川三郷 立川亮子

★お面一つ冠ぶれば役になりきり自信に満ちて歌い踊る児 昭和 鮎川 栄

★悔しさを抱きしめたまま帰宅して服ぬぎ独りあおるシャンパン 埼玉 伊藤一男


◎俳壇 山田省吾選

★大橋の下を根城に鴨の陣 大月 小俣義人

★冬ざれや野路の岐(わか)され石仏 甲府 伊藤隆雄

 ※「岐され」=分かれ。群馬から長野にかけての方言で、道が左右に分かれる所、分かれ道。

★御降りのあとの松ケ枝青深む 甲斐 松田健嗣

★門前に小猿の遊ぶ冬至かな 大月 志村忠義

★日向ぼこ共に余生の茶を囲む 富士吉田 鈴木眞人

★独り居の刻の流るるクリスマス 都留 松沢節子