⅛読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★冬日和一本道にはぐれたり 奈良市 浦城亮祐・

 【評より】斎藤茂吉の「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」を思い出す。茂吉の深刻さに対して、この句は道に迷ってしまったと滑稽。

★冬の雁争ひのない空を行く

 北名古屋市 月城龍二

 【評より】争いのない空に作者の思いが込められている。地球上の空が平和であって欲しい。

★榊手に差し足巫女の初神楽 横須賀市 大塚遊球子

(高野ムツオ選)

★雪来るぞ来るぞと空がのしかかる 北見市 藤沢直美

 ※cf.雪くるぞ来るぞくるぞと火が真つ赤(黛執)

★鵙猛る猛りて父も老いるなよ 大津市 田中八郎

 【評】鵙の激しい声に父の叱声を思い出した。年老いた今も、その荒々しさを失うことなく、末長く元気でいて欲しいとの子の呼びかけである。

★あまあまの味噌あつあつの大根かな 津市 中山道春

 【評より】「あまあま」「あつあつ」が相乗効果を生んで美味しそうな風呂吹き大根。

★夫死んで吾まだ生きて着ぶくれて 逗子市 鈴木喜久代 

★火と水の惑星に住み紅葉狩 松山市 高山洋子 

★このこゑは初めてなるぞ焼芋屋 下妻市 神郡 貢

★あらためて妻居ぬを知る零余子飯 葛城市 二上三六

★陸奥の初凪万の死者の黙 大船渡市 桃心地

(正木ゆう子選)

★熊こぐま帰れ帰れと地蔵菩薩 さいたま市 鵜飼克枝

★山茶花やファンデーションは我が花粉 東大和市 井上鈴野  

 【評】花に花粉があるように、人間の女にとって、化粧品は花粉であるという発想の面白さ。粉をはたいていると、雌蕊になったような気分。 

★このポストは入選しない凍つる朝 東京都 吉田かずや    

 【評より】没を嘆く投句…この句はなんとポストのせいにしているのが楽しい。

★鯛焼と夫待つ小さき家もある 三豊市 大西澄子

★熱の手にみかん冷たき夕べかな 小金井市 高橋広子

★雪吊りの整ひてより風鳴る樹 仙台市 大谷あつ子

(小澤實選)

★冬うららドッヂボールに校長も 野田市 鈴木 武

★熱燗の猪口は籠盛り志野織部 瑞浪市 岩島宗則 

(小池光選)

★そこここに私の知らない母が居る母の遺せし日記を読めば 東京都 鈴木真理子

★数日を帰省の娘は水まわり磨き上げしのち帰り行きたり 福山市 金尾海子

★サッカーを夜まで続けたのしいなボール飛んでくグランド外へ 鎌倉市 東峰隼人 

 【評より】作者は小学生か。はがきいっぱいに書かれた文字がうれしい。

★声揃えいじめはしませんさせません小学生らは花の苗植え 宮城県 松本美由紀

(栗木京子選)

★人質や戦禍の中の女たち今日いま生理用品ありや 大阪市 岡 洵子

★番長は留守番電話番テレビ番入院中につき空席に 福岡県 安田登美子 

 【評より】この歌では家を守ってくれる大切な存在のこと。「番」の文字の頼もしさに、その人の回復と退院を待つ思いが託されている。 

★生産性もはや持たざる身の寒く軒端に吊す十薬の束 宇都宮市 木里久南

★陳さんに我が書きし漢字正されて共に学ぶや日本語教室 横浜市 山田陽子

★しんがりの車椅子押す同行も皺深き貌の西国遍路 吹田市 辻井康祐

★隙間なく真綿の様な雲覆うこの空見上ぐる兵士居るらん 今治市 青野千春

(俵万智選)

★あの人の生きてる夢をみた朝に抹茶オーレはとけずに残る 豊岡市 神谷みゆき 

★銭湯の湯船の中のリンゴらの芯音を聞く程に浸れり 柏市塩田淳文

 【評より】「芯音」という造語が面白い。人間の心音にあたるものだろう。それが聞こえるほどの長湯、いい湯なのである。 

★甘栗を喜ぶ父の太い指黒い油の染みこんだ指 和歌山市 桜庭紀子 

★真夜中に走り回って早朝に戻ったような二匹のシーサー 守口市 小杉なんぎん 

★昔ならきっとどこかに出かけてたガラス戸越しに日射し眺める 大阪市 黒田道子 

★亡くなった祖父母の後になくなってしまう祖父母の住んでいた家 堺市 一條智美

★リビングの空気を変える宅配の人の元気な声を受け取る 沼津市 芹沢詩子

(黒瀬珂瀾選)

★時ならず咲くコスモスに雪積もる恥ずかしがるな面を上げよ 新生市 渡辺朋恵

 【評より】私たちもそのようにありたいです。 

★兵の日の寄せ書きに読む懐かしき人の名すべて冥界に入る 京丹後市 鉄林 篤

★アイロンの朝に陽炎立つ見えて獄の作業場冬来にけらし 仙台市 長岡義宏 

★井戸端の八手の花の匂ふ朝蔵より聞こゆる酛摺り(もとすり)の唄 長野市 原田浩生

「酒造り唄」と言って、酒造りの作業のリズムを作り、時間を測り、そして数を数えることができる唄。

★一冊が五円だという売るなっていうことだろう売らずに帰る 東久留米市 中里正樹 

★小春日の托鉢僧と老婦人頭下げ合ふ京の街角 富士見市 阿部泰夫


◎同ページの下段に短歌の年間賞(①)が載ってました。

たぶん、次週より、短歌②、俳句①、俳句②と続くのだろうと思います。年間賞については全部出揃ってから活字にして投稿したいと思います。