俳人協会刊「俳句カレンダー」9月。
★葛の花むかしの恋は山河越え 鷹羽狩行
現役の大御所。私の前師、旧母港主宰西山常好先生のお師匠さん。
記紀万葉の恋、逢瀬はそれこそ山越え谷越え。葛は昔からその根に薬効があるということで採取の為に若い者は山に入り、偶然他の村の異性と出会い恋に陥ることもあった。
鷹羽狩行=1930~2024/5/27。93歳。山形県生まれ。「狩」元主宰。句集「誕生」「十三星」など。
★秋光やコントラバスに添ふ少女 高橋みどり
★環濠の名残りの土塁秋の草 田岡青禽
★吾もまた風となりゆく大花野 松木昌子
★穂芒の孔雀の如く崖に照る 佐藤夫雨子
★奥嵯峨の髪すく風や女郎花 久谷和子
★葛の花母がひとりで帰る道 名村早智子
★セロ弾きのゴーシュゐるらむ露の夜 上田日差子
★使はざる闇のありけり虫時雨 石井いさお
★ある晴れし日の蓑虫にある泪 緒方 敬
★芋虫の朝昼夜となく太る 菰田 晶
★蟷螂を手中にしたるさびしさよ 新井秋沙
★桑の香に醒めて秋蚕の首をふり 高岡周子
★ネックレス指輪もはづし月祀る 植田桂子
★まなぶたをおろす恐竜月赤し 石田秀子
★月光の砂に埋もれ貝睡る 渡井恵子
★椅子の脚月の光を踏みてをり 佐藤風信子
★名月や赤壁見ゆる船下り 升本榮子
★薪で焚く湯のやはらかき良夜かな 田島久美子
★盛衰を語る琵琶の音十六夜 柴田鏡子
★福分けの烏賊の塩辛居待月 北村 操
★汽笛曳き霧に溶けゆく旅客船 田中嘉信
★もろ手あげ子はとんばうのむれの中 青木いく代
★川尻に蛇籠のかわく秋彼岸 井原美鳥
★素のままの君が一等草の花 木塚眞人
★りんだうや色の記憶のさまざまに 中谷恭子
★峠とは別るるところ吾亦紅 竹内 輝
★月山のくつきりと晴れ蕎麦の花 細川惠子
★干し上げて頑固な色に唐辛子 栗原律子
★爽やかに音をはづして鼓笛過ぐ 近藤みちる
★原生林つらぬく早瀬水澄めり 原田香伯