西日本新聞「西日本新春読者文芸」入選作品。⅓発表。

◎俳句 秋尾敏選

★(第一席)初稽古グリップテープまき直し 福津 藤吉靖信 

 ※グリップテープはあらゆるスポーツで使い、握った時の感触を良くすることと汗で滑ることを防ぐため。「初稽古」から日本の武道のようなイメージがありますね。

★(第二席)獅子舞の口に玄界灘の風 宗像 伊熊朋則 

 ※cf.「獅子舞の口へ太平洋の風(田島もりさん。当日83歳)」(2017年第29回伊藤園お~いお茶新俳句大賞文部科学大臣賞)

★(第三席)百歳に足を掛けたる初詣 筑前 井手 直

 【評】さあ、あと一年で百歳。歩くのも大変になったが、初詣には歩いて向かっている。この一歩、この一歩と続けていけば、やがて百歳にもたどり着くはず。

(佳作より。以下、同じ)

★白寿なる句友の披講淑気満つ 佐世保 牛飼瑞栄

 ※「披講」=詩歌などの会で、詩歌をよみあげること。

★新聞に膝より乗りて筆始め 福岡城 犬山裕芝

★軍港と呼ばれし故郷初凪す 佐世保 相川正敏

★一食はコンビニおでん三箇日 熊本西 恒松繁政

 ※はは、私も似たようなもんです。

★青竹の音は火の神どんどかな 福岡早 山下靖雄

★恵方なり竜の落し子棲む海は 筑紫野 古賀靖敏

★来年は閉ぢる牛舎や注連飾る 宗像 川口茂則


◎俳句 星野椿選

★(第一席)遠き子の心近づく初電話 糸島 春田美智子 

 【評】古里を遠く離れて住む息子から初電話が鳴って受話器を取る母親の気持ち。あれこれと話して二人の心は近づき遠距離等は忘れているのである。

★(第二席)ゆっくりと石打ちおろす初碁会 福岡中 西村英俊

★(第三席)俳諧は人生の糧去年今年 太宰府 入江眞己子

★初芝居まづは柝の音の澄み渡り 佐世保 相川正敏

★重ねゆく歳は幸せ今朝の春 太宰府 門谷とも 


◎短歌 伊藤一彦選

★(第一席)初空へみくじをわつと撒いたやう雀が百羽 どの子も吉ね 大野城 染川ゆり

★(第二席)初春の鯉を覗けばゆつたりとしたる泳ぎに背鰭つかはず 福津 佐々木和彦

★(第三席)三年日記そっと買おうと手を出すと妻の一声「五年になさい」筑紫野 伊藤 敏

 【評】 思いがけぬ妻の一声が作者には嬉しかったにちがいない。三年日記ですらためらっていたのだから。五年間を共に元気でいたいという妻のメッセージだ。

★「かつお菜のあるけん博多ん雑煮たい」夫はかつお菜パキリと切りぬ 糸島 森脇由利子

★賀状じまいしたはずの夫いそいそと郵便受けを見にいく元旦 志免 大久保容子

★お雑煮の餅は一個でいいですか亡夫の遺影に問いかけてみる 福岡中 平山なな子

★喪中でも詣でて良いか祖母に聞き端で小さく柏手を打つ 熊本東 貴田雄介

 ※小さなお子さんのことを詠まれたのでしょうね。

★戦争の終結祈る初詣で去年も今年も同じが哀し 福岡西 西崎ムツ子

★一個しかない満月を共に持つ地球人なら家族じゃないか 筑紫野 桂 仁徳

★いちばんにわが健康と願いたり夫の介護は二年目に入る 福岡早 市川登美榮


◎短歌 栗木京子選

★(第一席)車椅子下りて柏手初詣きっと今年はきっと歩ける 福岡中 白井道義 

 【評】神社までは車椅子で来たが、柏手を打つときは立ち上がった作者。もっと長く歩けますように、と願いを込める。「きっと」の繰り返しが力強い。

★(第二席)韋駄天さま褒めてください走り初め五百歩なるも九十二歳を 飯塚 山本昭義   

 【評】92歳で走り初めをした作者は普段から体を動かすよう心掛けているのだろう。健脚の神として知られる韋駄天に呼び掛ける上句がほほえましい。

★(第三席)トランプに負けて近くのコンビニへそのペナルティ買い初めとなす 福岡早 佐々木謙介

 【評より】「ペナルティ」と表しつつも新年初めての買い物はどこか楽しそうである。

★南天は難を転ずる意のあると停戦願い正月花に 福岡西 木村陽子

★目分史の下巻も上梓せし歳よ卒寿の途に初明り来る 八女 吉泉恒德

★やはらかさのこりてをればあんこ餅焼かずに食べぬ元日のひる 福津 佐々木和彦

★菜の花を膳に添えむと湯通しの絞る手のうち春がこぼれる 福岡早 市川登美榮②


◎川柳 森中惠美子選

★(第一席)朝刊を開き今年の風を読む 福岡早 出雲一夫

★(第二席)全身に浴びる初日のエネルギー 福岡城 坂梨和江

★(第三席)妻は辰年いちまい持っている鱗 小郡 加賀田干拓

 【評より】一年の計を共にするいちまいの鱗は頼りになるのだ。

★今年こそ戦渦の子らへ届け春 福岡西 木村久則

★まだ女歳は数えぬ初鏡 佐々 法本安子

★お年玉頂く側にやっとなり 福岡中 平山なな子

★女正月鬼の居ぬ間の屠蘇の酔い 福岡南 下田三休


◎詩 平田俊子選

(第一席)「新しい年を」糸島 川上由美子


一ページ

ニページ

三ページ

ページをめくりめくり

新しい年を迎える

何のことはない

次の日がやってきただけ

なのに

大みそかと元日の間に

一線を引く

過去は遠いもの

過去には戻れない

朝日を拝み

神妙な顔をして

神に祈りを

再生の儀式を経て

わたくしは迎える

もう始まっている


(第二席)「いつもどおり」八幡東 植田文隆


盆も正月も

関係ない仕事

そういうものだと

思っている


自分としては

力不足を感じている

まだまだだ

そう言いながら


きっと正月も

仕事に行くのだろう

そして働くのだろう

そういう仕事だ


働ける幸せ

ようやく少し

感じれるように

(第三席)「日めくりカレンダーさん」有田 筒井孝德


毎年、年が明けてお正月になると

わたしはぷっくりと太るんです

去年の暮れのわたしのすがたときたら 

もう見る影もないくらいやせ細っていて 

大晦日に最後のいちまいが捲りとられるまで

ときおり吹くすきま風に

ペラペラと音を立てるばかりでした


行きたい場所、欲しいもの、会いたいひと

今のわたしのなかには

あなたの思い描く未来が詰まっています

そして、日々をいちまい、いちまい

具現するように捲りとるたび

過ぎ去った時間は

掛け替えのない思い出に変わってゆきます


さて、今日もいちまい捲りましょうか

いったいどんな一日がはじまるのか

わたしは誇らしげに壁に掛けられたまま

あなたの指さきが触れるのを待っています