1/1長崎新聞「新春郷土文芸」入選作品(2)川柳、現代詩。

◎川柳① 瀬戸波紋選

入選第1席

★息災の福福福の新春の膳 長崎 富永熙子

 (評)新年の幕開け、一家そろって元気に囲む幸せな膳。芭蕉の句「松島や」をほうふつさせる。


入選第2席】 

★天翔ける竜に祈願の初詣 長崎 辻 保雄 

 (評)臥竜もやがて天を目指し、宝玉を追いわしづかみして天かける。そんな招福を期待する。


入選第3席

★四世代笑顔で祝う新春の膳 長崎 中村行男

 (評)経済環境は今一つだが平穏な日本。ひ孫を囲み笑顔で迎えられる初春はありがたい。


選者吟】「三が日」 

★カウントダウン正月の人となる

★信号が遮る新春の人溜まり

★信号へゆっくり渡る三が日


◎川柳② 永石珠子選

入選第1席

★軍なき平和日本に住める幸 長崎 佐伯さくら 

 (評)過酷な戦争体験以来、90年近く戦なき平和な日常を送る日本人の感慨が込められている。 


入選第2席

★初詣で世の安穏を祈るだけ 長崎 小野友幸 

 (評)一家そろって初詣。世界平和と世の中の平穏無事、家族の安泰を願い、両手を合わせる。


入選第3席】 

★迎春の空は眩しく皆笑顔 佐世保 光武正義

 (評)笑顔で「新年おめでとう」の挨拶を交わす知人友人。初春の空も晴れ、皆いい年を迎えた。


選者吟】「新春」

★健康で安泰一家屠蘇祝う

★年賀状の龍に今年の運をかけ 

★百歳まで生きよう友と初電話


◎川柳③ 井上万歩選

入選第1席

★百二歲好き嫌いない祖母に屠蘇 諫早 川瀬 進 

 (評)百寿を越えてなおかくしゃくと生きる祖母に屠蘇を勧める。めでたい新春の一コマ。

 ※短歌の馬場昭徳さんの第一席「98の気概」もすごいですけど、こちらは102歳!素晴らしい!


入選第2席】 

★先ず祈る日の出に向い世の平和 長与 渡部克子 

 (評)戦争を体験した者にはなおさら、現在の惨状は身につまされる。世界が祈っている。


入選第3席

★六度目の干支は今年登り龍 新上五島 鼻﨑則子 

 (評)辰年に向けて、登り龍の勢いでこの一年を乗り切る覚悟の句である。


選者吟】「戦の愚」 

★戦の愚悟って欲しい初日の出 

★先見えぬいくさ不安な年が明け

★大宇宙なぜこの星は戦好き


◎現代詩 野田桂子選

入選1「記憶」 馬場敦子(大村市)

生け花を教えていた母が忘れたのは 

道路脇の植栽の花の名前

代わりに幼い頃の

遠足とそこでのちょっとした事件やら 

可愛がってくれた年若い叔父たちの 

涼やかなまなざしのことやらが 

宝箱の奥からひっぱりだすように

次から次へと湧き出てくるのだった


九十余年分の日常は分厚く 

古い記憶は地層の底へと沈んでいって 

やがてこまかい砂のようにほどけてしまう

そのはずではなかったか


錆びたビスケット缶のなかに閉じこめたのは

あの夏の記憶 

女学校をさぼって昼餉の茄子をもいでいた

そのとき 唐突に 

青い空に膨れ上がる黒い雲と突風と揺れと轟音と

そしてひとつの予感 

茄子畑に座りこんで自失していた あの日

級友たちのほとんどが爆死したのだった


何十年ものあいだ記憶の奥底に閉じこめ 

かたくかたく歪むほど押さえつけた母の缶 

やはり鎮魂の花を活けなきゃいけないと

呟いたのは いつだったか 

彼女らが本当であれば生きたであろう

老齢をひとりむかえられた自分を

母はもう赦してほしかったのだろうか


花を忘れた母に鋏を握らせる

母の手がためらわずぱちりと枝を剪る 

途端に花は余所行きの顔をむける 

心ではない体の記憶

母の背がすっと伸びた

 (評)ぱちりと枝を剪るとき、すっと伸びた背で何を見ておられるのか。継承された記憶が重く伝わります。


入選2「変わっているね」吉開靖之(佐世保市)

キンモクセイもパンジーも 

陽の光を浴びて

今を盛りと咲いている

秋の季節の訪れを告げて


オシロイ花は人目をさけるように

薄暮の中に咲き 

早朝、桃色の小さな花をつけている 

かすかに芳香をただよわせて


「この花は変わっているね」 「じいちゃんのごたる」

小学三年の孫娘は

私を見つめ、口籠った


理由を尋ねても

ただ、ほほえむばかり

説明できなくてもわかっている

沈黙するしかない直観だ


人工知能でも及びもつかない

ひらめきだ

わかってくれている少女が

いとほしくなった


◎短編小説は該当なし。


※1日は、長崎新聞の他、西日本新聞「西日本読者文芸」にて選者さんの新春詠があり、「西日本読者新春文芸」は3日のようです。朝日、読売、毎日は今日全部買ったのですが特にありませんでした。