◎「グループ作品」
(あたご荘俳句会)
★食べ頃や牛舎の軒の吊し柿 髙永久子
★晩秋や日々変はりゆく服選み 谷村光子
★高速の右も左も泡立草 平野和子
★留袖を着れる喜び秋の日に 紙谷久美子
★集まりて賑はふ枯れ葉笑ひたり 川本こう
(南島原句会)
★黄泉の娘のプレゼントなり銀杏落葉 伊崎勇喜雄
★病棟の吾子を照らすや聖樹の灯 矢島利明
★孫子より年玉貰ふ歳となり 江越智惠
★暮れ早し街灯にうかぶ子等の顔 林田英子
★からゆきの里の語り部帰り花 本多フサエ
★老いし日々うれしき朝の戻り花 川上久美子
★水洟で漬ける高菜や積み上る 荒木晴美
★母老いて柔和となりぬ石蕗の花 森野章子
◎「短歌(うた)ありて」
★さやさやと稲田ひろがるその中にことし一枚放棄田の出づ 林 直孝
「さやさやと稲田ひろがる」この光景こそ、稲作に携わる人々が待ち望み、ほっとひと息つける眺めではないだろうか。多くの手間と月日を重ね、色づいてきた穂波を目のあたりにしながら、充実したひとときに浸る作者を想像する。しかし、その中に「ことし一枚放棄田の出づ」と実情を詠まねばならない作者の深い思いに、こちら側まで切なくなる。今、農耕者の平均年齢は70代と聞くが、後継者不足により放棄地が増えている。「ことし一枚放棄田の出づ」を重く受け止めたい。第63回 県文芸大会短歌20首詠の部、最優秀賞・長崎新聞社賞作品より。 (歌の実・山里和代)
★金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に 与謝野晶子
一斉に黄葉するイチョウは、大樹ともなればその神々しさについ見とれてしまうが、この歌は散り落ちる金色の葉1枚の形をうたうことで、木全 体の姿を読者に喚起させ、さらに、近景の金色のイチョウが遠景の赤い夕日の中に鮮やかに立ち上がる。そして、散り尽きたイチョウは冬空にその幹枝を惜しげもなくさらす。
今年の諫早市民文化祭文芸大会で「一葉もまとわぬ公孫樹の凛と立つこんな露になれるか我は」(岡本博) と出合った。晶子の歌「自らが幸い君がさいはひのつゆも変わらぬものにてあれかし」を分かち合い、来年が穏やかで平和にならんことを願う。(やまなみ・山本博幸)
◎「あわい」欄の記事