12/24朝日俳壇・歌壇。「冬山や山に眠れる山男(小谷一夫)」他。

◎高山れおな選

★僕たちは誰の味方か虎落笛(北名古屋市)月城龍二

 【評】世界中をさまざまな分断が覆う時代。上五中七の立ち尽くすような感じにどきりとした。

★生き方を師走の街に見られけり(厚木市)北村純一

★松風のごとく釜鳴りにら雑炊(横浜市)猪狩鳳保

 ※「釜鳴り」というのは「鳴釜神事」のことでしょうか。鳴釜神事は岡山県の吉備津神社に始まる。鳴釜神事は釜の上に蒸篭(せいろ)を置いてその中にを入れ、蓋を乗せた状態でを焚く時に鳴る音の強弱・長短等で吉凶を占う神事

遺影にと君と撮りあう小春日の(所沢市)高橋裕見子

★冬山や山に眠れる山男(大村市)小谷一夫


◎小林貴子選

★落ち鷹の高き一声母逝けり(春日部市)田中政子

 【評】秋に南国へ渡る鷹が途中で落命することがある。それを落ち鷹という。

 ※東南アジア方面へ渡らず越冬するサシバを「落ち鷹」という説もある。ここでは評者(選者)の言う「落ち鷹」でしょう。

★世渡りの拙き身にも除夜の鐘(さくら市)青木一夫

★簡単に見えてなかなか冬構(八代市)山下しげ人 

★あかぎれを案じてくれし夫は逝き(防府市)山口正子

★湯豆腐やどうにもならぬ話され(いわき市)佐藤朱夏

★杏子去り好摩も去りて落葉霏霏(加古川市)伏見昌子

 ※同紙面に澤好摩さんに触れた記事あり(「俳句時評」)


◎長谷川櫂選

★花の神と呼ばれし父や冬薔薇(寝屋川市)今西富幸 

★公魚(わかさぎ)の眼の美しく凍てにけり(高崎市)本田日出登

★大いなる橡の落葉を掃く音か(桶川市)玉神順一


◎大串章選

★曾孫と卒寿の夫と日向ぼこ(泉大津市)多田羅初美

★焼芋屋いもの産地をこまごまと(川越市)大野宥之介

★駅ピアノ空港ピアノ冬あたたか(熊本市)加藤いろは 

★水鳥の飛び立ち湖面軽くなる(大村市)小谷一夫②

★熱燗や何時の間にやら聞き役に(柏市)藤嶋 務

★六十年書き続け来し日記果つ(島根県邑南町)服部康人 

★方言の里を問はれし日向ぼこ(塩尻市)古厩林生

★凍滝の芯より水のこゑ聞ゆ (栃木県高根沢町)大塚好雄

★駅伝の終りし道を焼薯屋(栃木県壬生町)あらゐひとし

★神さまもう許してあげてプリズンで閑かに歌詠む郷さん想う(三鷹市)大谷トミ子

★歌により罪赦さるる説話読み郷氏を思ふ叶はぬ願ひか(朝霞市)岩部博道

★「郷隼人」さんの名前に安堵してガザ、ウクライナへ視線を移す(近江八幡市)寺下吉則

 【評より】上の3首、今回は久びさの郷隼人さんの歌壇復帰(11月26日)を喜ぶ歌がたくさん寄せられた。

★駆け込んで柿まるのまま丸齧る女の若さ乗せバスは行く(スイス)岸本真理子

★山からは五キロ離れた我が家でも柿の木二本あれば恐ろし(五所川原市)戸沢大二郎

★揃えてたトイレのスリッパ駆け足の形に変わる孫の来た午後(松山市)矢野絹代

★法要に伯父が残した日記読むかすれた文字のラーゲリの日々(安芸高田市)安芸深志

★「エンディング」「終(つい)の」「一人の」我の今日借りて帰りし本の背表紙 (松山市)宇都宮朋子


◎永田和宏選

★冬眠中に建設工事の始まった亀の気持ちのMRI(奈良市)山添 聖子②

★ブランコは巻き上げられて公園は雪捨て場となる春まで眠れ(札幌市)橘 晃弘

★住吉は和歌の神ですこの名前筆名みたいとよく言われます(札幌市)住吉和歌子


◎馬場あき子選

★クルド人在留許可が少し下りる許可出ぬ家庭と溝は深まる(朝霞市)青垣 進

★袴田さんの確かな筆跡崩れゆく長き独房暮らしの果てに(鹿嶋市)大熊佳世子

★「樹木葬、散骨できます」寂れゆくこのふるさとのための折り込み(観音寺市)篠原俊則②

★かすかにも紅葉ふむ音させて寄る雀とパンを分かつしあわせ(西宮市)澤瀉和子 

★スマホから作る料理がおもしろい生きる八十路に彩副える(鴻巣市)今井君枝 


◎佐佐木幸網選

★屋根を打つ霰の音よ夕暮れの道は見る間に白くなりたり(秋田市)佐々木義幸

★腹からの競りの声響きカンパチが箱をはみ出す土佐清水港(熊本市)田川 清

★縄跳びに初めて挑む幼子はこぶし握りて歯をくいしばる(久喜市)白石由紀

★マフラーを初めて買った沖縄の友はハチ公前でスキップ(日田市)石井かおり


◎俳句時評は、阪西敦子さんによる「澤好摩さん」

 ※俳句時評の内容はあとで読みやすいように活字に致します。