◎俳句 秋尾敏選
★苦笑ひして裸木となりにけり 佐世保 牛飼瑞栄
【評】纏っていたものをすべて落とした裸木は、苦笑いしながらそうなったに違いないと。
★熱気球ふはりと空へクリスマス 福津 藤吉靖信
※クリスマスに熱気球に乗ってサンタがやって来る、などのイベントをする所があるとニュースで聞いたことがありますね。
★朝霧をぬけ朝霧へ走り込む 宗像 川口茂則
★野分去りフェリーは汽笛交はし合ふ 糸島 上野純子
◎俳句 星野椿選
★玄海へすとんと落ちる冬日かな 大野城 荒木信夫
★在りし日を偲び石榴の実をほぐす 久留米 秋吉鈴子
★山茶花やあと幾年をこの家に 筑紫野 横山美惠子
★青々と島教会の冬蘇鉄 福岡中 山崎 賢
★軒深き昭和の家や木守柿 福岡中 西村英俊
★落葉して眠りにつけり山の木木 伊万里 田中秋子
★背に腹にカイロを貼りて野良に出づ 有田 栗山愼悟
★彩つくし眠りに入る紅葉山 唐津 池内淳子
★ゆっくりと日の移りゐる冬紅葉 太宰府 入江眞己子
★足音に振り返りたる落葉径 大川 今泉美代
★冬空の雲の上なる日差しかな 飯塚 野見山洋子
◎短歌 伊藤一彦選
★保育器を出され赤子はつぎつぎと「ガザ」のベッドに泣き声の消ゆ 八女 柴田眞理
★年末の夜勤の数はあと四日と小さくガッツの若い看護師 福岡城 白山 嵩
★ばあちゃんの漬けた梅干しおいしいと料理上手の孫婿が言ふ 川崎 刀祢日出子
★独り居の家の灯りと漏れ来たるテレビの音に少し安堵す 大牟田 柿川京子
★長男の生まれし年にゴムの木を育て増やして五十五年 佐世保 松崎伸苑
◎短歌 栗木京子選
★終活にも未来があると思いつつ春菊の種菜園に蒔く 小郡 大隈はつき
【評より】終活というと、後ろ向きな気分になりがちだが、作者は未来に向けて夢を育てることも終活の大切な要素だと。
★七年ぶりウクライナからクリメンコさん「祖国に栄光を」とバルーンに染めて 宇美 井上照男
★友よりの「食うてはいよ」と訛り付き里の香包む干し柿届く 福岡西 石田ひろみ
★外出の機会少なくよそ行きを着てはワクチン打ちに出掛ける 佐世保 松崎伸苑②
★夢に逢ふ夫の実験着しわしわでアイロン出せばはたと覚めたり 福岡南 安東光子
★人間は木々に引け目を感じつつ街の緑を切り取ってゆく 熊本東 貴田雄介
◎詩 平田俊子選
「奪うな蓑を」福岡南 寺西純二
枝から糸を引いてぶら下がった蓑虫
今ではほとんど見かけない晩秋の景
清少納言の蓑虫の子は乳をねだって
「母よ、母よ」とかぼそく鳴き続けた
秋風の吹くころになっても
とうとう親は迎えに来なかった
親はあっても蓑を奪われた蓑虫たちには
息をして微睡める温かいベッドすらない
(温かいベッドはなければならない)
素裸にされ体温も下がり続けるだろう
(下がり続けてはいけない)
泣き声も間遠になっていくだろう
(間遠になってはいけないのだ)
保育器のなかで育った孫も一歳三ヶ月
ハイハイからようやく二足歩行へ
見える世界が変わるのは楽しいはず
両手でバランスをとりながら(倒れそう)
ボクを目がけて一直線に駆け寄ってくる
ジイジは堅く抱きしめてやるだけだ