12/18西日本新聞「西日本読者文芸」

◎俳句 秋尾敏選

★苦笑ひして裸木となりにけり 佐世保 牛飼瑞栄

 【評】纏っていたものをすべて落とした裸木は、苦笑いしながらそうなったに違いないと。

★熱気球ふはりと空へクリスマス 福津 藤吉靖信

 ※クリスマスに熱気球に乗ってサンタがやって来る、などのイベントをする所があるとニュースで聞いたことがありますね。

★朝霧をぬけ朝霧へ走り込む 宗像 川口茂則

★野分去りフェリーは汽笛交はし合ふ 糸島 上野純子


◎俳句 星野椿選

★玄海へすとんと落ちる冬日かな 大野城 荒木信夫

★在りし日を偲び石榴の実をほぐす 久留米 秋吉鈴子

★山茶花やあと幾年をこの家に 筑紫野 横山美惠子

★青々と島教会の冬蘇鉄 福岡中 山崎 賢

★軒深き昭和の家や木守柿 福岡中 西村英俊

★落葉して眠りにつけり山の木木 伊万里 田中秋子

★背に腹にカイロを貼りて野良に出づ 有田 栗山愼悟

★彩つくし眠りに入る紅葉山 唐津 池内淳子

★ゆっくりと日の移りゐる冬紅葉 太宰府 入江眞己子 

★足音に振り返りたる落葉径 大川 今泉美代 

★冬空の雲の上なる日差しかな 飯塚 野見山洋子


◎短歌 伊藤一彦選

★保育器を出され赤子はつぎつぎと「ガザ」のベッドに泣き声の消ゆ 八女 柴田眞理

★年末の夜勤の数はあと四日と小さくガッツの若い看護師 福岡城 白山 嵩

★ばあちゃんの漬けた梅干しおいしいと料理上手の孫婿が言ふ 川崎 刀祢日出子

★独り居の家の灯りと漏れ来たるテレビの音に少し安堵す 大牟田 柿川京子

★長男の生まれし年にゴムの木を育て増やして五十五年 佐世保 松崎伸苑


◎短歌 栗木京子選

★終活にも未来があると思いつつ春菊の種菜園に蒔く 小郡 大隈はつき

 【評より】終活というと、後ろ向きな気分になりがちだが、作者は未来に向けて夢を育てることも終活の大切な要素だと。

★七年ぶりウクライナからクリメンコさん「祖国に栄光を」とバルーンに染めて 宇美 井上照男

★友よりの「食うてはいよ」と訛り付き里の香包む干し柿届く 福岡西 石田ひろみ

★外出の機会少なくよそ行きを着てはワクチン打ちに出掛ける 佐世保 松崎伸苑

★夢に逢ふ夫の実験着しわしわでアイロン出せばはたと覚めたり 福岡南 安東光子

★人間は木々に引け目を感じつつ街の緑を切り取ってゆく 熊本東 貴田雄介 


◎詩 平田俊子選

「奪うな蓑を」福岡南 寺西純二


枝から糸を引いてぶら下がった蓑虫

今ではほとんど見かけない晩秋の景 

清少納言の蓑虫の子は乳をねだって 

「母よ、母よ」とかぼそく鳴き続けた

秋風の吹くころになっても

とうとう親は迎えに来なかった

親はあっても蓑を奪われた蓑虫たちには

息をして微睡める温かいベッドすらない

(温かいベッドはなければならない)

素裸にされ体温も下がり続けるだろう 

(下がり続けてはいけない)

泣き声も間遠になっていくだろう

(間遠になってはいけないのだ)


保育器のなかで育った孫も一歳三ヶ月

ハイハイからようやく二足歩行へ 

見える世界が変わるのは楽しいはず

両手でバランスをとりながら(倒れそう) 

ボクを目がけて一直線に駆け寄ってくる 

ジイジは堅く抱きしめてやるだけだ