12/17朝日俳壇・歌壇
★ふる里につつまれてゐる日向ぼこ(八代市)山下しげ人
★無頼派の作家を惜しむおでん酒(伊賀市)福沢義男
【評】無頼派の作家というと太宰治や坂口安吾などがいるが、この「作家」は伊集院静氏か。
★歩ききてふと見渡せば枯野中(東京都)徳竹邦夫
【評より】「92才の実感です」と添書にあり。
★熊除けの鈴一列に登校す(大阪市)今井文雄
★独身寮の軒に故郷の柿吊す(高槻市)日下遊々子
★思考より検索の時代漱石忌(東村山市)鈴木 忠
◎高山れおな選
★かじけ猫路肩の湯気に集まりぬ(別府市)樋園和仁
※季語は「かじけ猫」(冬)。寒さを嫌って、炬燵や竈に潜って灰だらけになったりする猫。
★ゆふまぐれ屏風へ帰る虎と獅子(東京都)吉竹 純
※季語は「屏風」(冬)。
【評より】夕暮れ時の動物園で感じた哀愁から生まれた幻想、と読んだ。
★半焼けの表紙の女優焚火跡(栃木県壬生町)あらるひとし
★霜までの命皇帝ダリアかな(川越市)大野宥之介
★新しき秣(まぐさ)の湿り小春風(浜松市)野畑明子
※「秣」=馬や牛などの飼料にするほし草・わら。かいば。
★落葉焚くしがみついたる空蟬も(東京都府中市)矢島 博
◎小林貴子選
★波郷忌の薬膳鍋や鶏牛蒡(千葉市)相馬晃一
※「波郷忌」=11/21(昭和44年)。
★新聞が届く勤労感謝の日(相馬市)根岸浩一
★大皿も納豆汁も母もなく(相馬市)立谷大祐
◎長谷川櫂選
★梟や静かなる人恐るべし(筑西市)加田 怜
★鯊日和友ひとり得て帰りけり(新座市)五明紀春
★一ページめくるが如く冬が来る(長岡京市)寺嶋三郎
★全山も庭の一樹も紅葉晴(愛知県阿久比町)新美英紀
★思ひきや小春の内の雪見酒(名古屋市)池内真澄
【評】十一月の木曽。
★新井家の今年の漢字「痛」なりき(栃木県壬生町)あらるひとし
【評】骨折、虫歯、ぎっくり腰。
☆言語野に幽けき花が一つ咲く息子が私を「お母ん」と呼んだ(戸田市)藤原真理
【評】重度知的障害の息子さんが二十五歳になって、初めて母である作者を呼んだ場面という。
※馬場あき子共選。
★高倉健森繁久彌森光子行ってしまった霜月十日(相模原市)荒井 篤
【評】三人はみな、十一月十日に他界した。
★街なかの丸善に書を買いにゆく翡翠(かわせみ)色のクロスバイクで(京都市)中川大一
★御嶽山(おんたけ)に雲の降り来てゴンドラの右に左に走る稲妻(名古屋市)木村久子
★遠景に蔵王を据えて頂より白き絵の具を含ませてゆく(岩沼市)相澤ゆき
★山峡の鉄路を埋める落葉踏み仙山線は慎重に走る(山形市)佐藤清光
◎高野公彦選
☆麻酔なくスマホのライトにメス握る医師の腕には包帯巻かれ(中津市)瀬口美子
【評】過酷な現実に向かい合うガザ地区の病院内の光景。
※馬場あき子共選。
★老犬に引かれ老人歩みゆくふたつの影を包む夕光(福島市)美原凍子
★朝早くチェーンソーの音聞こえ来る後継者なき林檎園より(五所川原市)戸沢大二郎
★右手より冷たい母の左手を揉んであげたり擦ったりしたり(八千代市)砂川壮一
◎永田和宏選
★保育器を出されしガザのみどりごの生は緑布の温みのもつ間(水戸市)中原千絵子
★名付けられ名前で呼ばるるはずだったガザの未熟児その後の映らず(八王子市)額田浩文
★平和しか知らない子たち戦しか知らない子たち皆ママが好き(日田市)石井かおり
★哀愁と郷愁湛え汽車が行く夜のサリナス大平原を(アメリカ)郷 隼人
★諦めといふこからは何も出ぬ底から雲を眺めてもよい(岐阜市)後藤 進
◎馬場あき子選
★身罷りし父の出棺時雨降る職人二人木遣で送る(東京都)尾張英治
★瓦礫の山にポツンと残る観覧車ガザにはもう乗る親子なし(京都市)森谷弘志
★ジョン・レノンと西岡徳江お二人の今日は命日12月8日(アメリカ)郷 隼人②
★外つ国の青年の継ぎしおでん屋に隠しメニューのカレーが香る(光市)永井すず恵