12/10令和五年度俳人協会長崎県支部総合俳句大会


 ※西日本新聞、長崎新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の俳壇、歌壇を読むのに時間を取られ、大会のご報告が遅くなりました🙇。


 佐世保市中部地区コミュニティセンターにて12月10日に「令和五年度俳人協会長崎県支部総合俳句大会」が行われました。勿論私も出席致しました。全投句数286句。

(↑作品集表紙。事務局長の鴛渕和明様の手による素晴らしいものでした)

◎入賞作品

大会大賞

今の世も豆腐は四角汀女の忌 米光徳子

 ※高永久子特選一席、西史紀特選三席、牛飼瑞栄佳作選

 ※素晴らしいですね。米光さんは昭和9年生まれ、89歳。「杏長崎」「沖」。

   ※特選一席評は他の句とともに、後段に記録しました。


長崎新聞社賞

手鏡の奥にとどまり秋の蝶 森 径子

 ※染谷秀雄特選一席


秀 逸 賞】3句

★新刊を積む店先や涼新た 江里口水子

   ※辻原晩夏特選三席、染谷秀雄・髙永久子・永野濶子佳作選

★竹林はどこも入口五月来る 永野濶子

   ※藤野律子特選一席、染谷秀雄特選三席

★秋の水掬へば色を失へり 藤野律子

   ※牛飼瑞栄特選一席、染谷秀雄・籏先四十三佳作選


佳 作 賞】19句

★待春のこころ華やぐイヤリング 籏先四十三

   ※辻原晩夏特選一席

★晩夏光ただ解体を待つ校舎 永川庸子

   ※西史紀特選一席、辻原晩夏佳作選

★松手入仕上げの音となりにけり 牛飼瑞栄

   ※藤野律子特選二席

★蚯蚓鳴くやさしき嘘を云う女 井原雅胤

   ※辻原晩夏特選二席、奥村京子・藤野律子佳作選

★秋天に麒麟の首のただよへり 荒井千佐代

   ※永野濶子特選一席、藤野律子佳作選

☆中華街の赤に酔ひけり秋しぐれ 荒井千佐代②

   ※奥村京子特選一席

★貼り紙の文字に勢ひ新豆腐 田中和枝

   ※染谷秀雄・西史紀・藤野律子佳作選

★三叉路のひとつは郷へ稲の波 鴨川富子

   ※髙永久子特選二席、牛飼瑞栄佳作選

★突き棒の舟より長き海鼠捕 赤城正信

   ※染谷秀雄特選二席、永野濶子佳作選

★手に掬ふ光の粒や今年米 湯川京子

   ※髙永久子・籏先四十三特選三席、西史紀佳作選

☆風呂敷に秋を包んで母来たる 湯川京子

   ※髙永久子・辻原晩夏・藤野律子佳作選

☆老人が老人祝ふ敬老の日 湯川京子③

   ※永野濶子特選三席、藤野律子佳作選

★焼秋刀魚みごと骨格標本に 内田育子

   ※奥村京子特選二席、辻原晩夏・西史紀佳作選

☆黙々と子の墓洗ふ老夫婦 内田育子②

   ※永野濶子特選二席

★山の灯も船の灯も秋澄めり 富岡三枝子

   ※染谷秀雄・牛飼瑞栄・奥村京子・籏先四十三佳作選

★ふるさとの風も詰め込み届く柿 植村京子

   ※籏先四十三特選一席

★山はまだ普段着のまま柿日和 奥村京子

   ※牛飼瑞栄特選三席、髙永久子佳作選

★木道に別れ道あり秋の蝶 田原より子

   ※染谷秀雄・奥村京子・髙永久子佳作選

★教会の椅子は長椅子聖五月 原田覺

   ※西史紀特選二席、藤野律子特選三席


※☆印は複数入賞につき、上位のみの表彰。


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥特選一席評‥‥‥‥‥‥‥‥


★今の世も豆腐は四角汀女の忌 米光徳子

 〜(髙永久子特選一席評)豆腐は奈良時代に中国より入ったそうだ。その時も四角だったのだろうか。この後もずっと四角なのだろうか。汀女は熊本の俳人で水前寺公園の芭蕉林に「とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな」がある。汀女は淑女とか。


★手鏡の奥にとどまり秋の蝶 森 径子

 〜(染谷秀雄特選一席評)眉毛の手入れでもしているのであろうか、手鏡に映る庭には秋の草花も咲いている。その花の蜜を求めて飛んで来る小さな蝶の数々。手鏡の中に動いている蝶は、まるで手鏡の奥にとどまっているかのような秋の蝶である。


★竹林はどこも入口五月来る 永野濶子

   〜(藤野律子特選一席評)「光る地面に竹が生え」からはじまる萩原朔太郎の『竹』の詩を思わせる秀句。/山峡からの涼風が惜し気もなく通う。竹の穂が絶え間なく揺れ、さやさやさやと優しい音を放つ。竹山は少し傾斜がある瑞々しい景。

   ※「竹林はどこも入口」、言われてみれば至極納得、竹林の裾の光景がみるみる脳裏に浮かんで来ます。上手いなあ。(すえよし)


★秋の水掬へば色を失へり 藤野律子

   〜(牛飼瑞栄特選一席評)秋風のことを色なき風とも言うが、そのことを踏まえての作だろう。/「水澄む」の季語ではなく、敢えて「秋の水」とされたことによって、秋という孤愁を帯びた季節感がより濃く反映されている。


★待春のこころ華やぐイヤリング 籏先四十三

   ~(辻原晩夏特選一席評)寒が緩み日増しに暖かさを感じる頃、外出でもしてみようかとの気持ちがわいてくる。イヤリングに何でもないちょっとした喜びが凝縮されているようだ。


★晩夏光ただ解体を待つ校舎 永川庸子

   ~(西史紀特選一席評)本県では特に小中学校の統廃合が頻りだ。廃校舎は取り壊され瓦礫となってゆく。夏休み開けはまだ晩夏光。本来なら児童生徒の声に満ちる校舎が解体を待ち静まりかえっている。「ただ」という副詞の使用が効果的だ。


★秋天に麒麟の首のただよへり 荒井千佐代

   ~(永野濶子特選一席)動物園だろうか。秋の、すっかり晴れ渡った空にキリンの首がゆらゆらとただよっている。キリンは一定の場所には留まらないので、きっと歩き回っているのだろう。「ただよへり」が効いている句である。


★中華街の赤に酔ひけり秋しぐれ 荒井千佐代

   ~(奥村京子特選一席)久しぶりに中華料理を食べたいと思い、中華街へ出かけた作者。街を彩る赤に圧倒されて店をさがしていると、俄に雨がぱらつきだした。中七の表現に感服脱帽した。特に切字のけりで締められたことが素晴らしい。


★ふるさとの風も詰め込み届く柿 植村京子

   ~(籏先四十三特選一席評)故郷を離れてから、はや幾年。いまなお実家の親から毎年この時期になると、大好きな柿がとどく。柿を見るたびに故郷の山・川・野が頭をよぎる。この句の良さは「風も詰め込み」でしょう。


◎私

★露の玉表面張力もう限界(籏先四十三佳作選)