12/4長崎新聞「郷土文芸」

◎俳壇 前川弘明選

★戦場の少女を抱き神の旅 長崎 三宅三智夫

 (評)出雲へ集まる神々は、不幸な戦場の少女たちを抱きしめてゆくだろうと、平和希求の願い。

★初時雨ピアノの音の鳴りやまぬ 長崎 入口靖子 

 (評より)私の中のピアノが鳴りやまぬ。

 ※最近、入口さんご夫婦のご活躍、目を見張るものがありますね。

★図書館へ黄落の道未知の道 諫早 西宮三枝子 

 (評より)黄落の道をときめきつつ未知の詰まった図書館へと歩く。

★竹春の風煌めきて寺二つ 長 与 竹馬亮二

★舎利塔の指呼の白さや秋深む 東彼杵 沖永愼吾 

★雲の影よぎりし後に山眠る 佐世保 相川正敏

★大鳥居影を正して冬に入る 長崎 江里口水子

★水仙の海荒ぶ日の匂ひ濃し 西海 原田 覺

★恐竜の本を枕に冬眠す 長崎 入口弘德

★突堤に男おらぶや今朝の冬 佐世保 森 誠

★冬雲を積みてゆきけり色ガラス 西海 田川育枝

★懐手漱石つひと胃を撫づる 佐世保 福田信賢

★もう少し歩いてみるか秋澄めり 長与 相川光正 

★命日や母に会いたい秋夕焼 佐世保 松山茂則

★緋の色のセーター選び街歩き 長崎 林 倫子

★南部釜燗熱くして友と飲む 大村 福谷健吉

★海風に胸をそらすや冬鴎 時津 松園正雄

【選者吟】首のべて白鳥は見る沖の向う


◎歌壇 長島洋子選

★話したきこといっぱいの冬の蝶語らむと吾に寄りそう哀れ 五島 眞鳥謙吾

★在らば妻の七十六歳の誕生日のみやげのカステラ供ふ 五島 祝 和義

★死ぬるとはこういうことか物言わぬ遺影しか見ぬあれからの日々 東彼杵 中村恭子

★夫逝きて一人暮らしのルーティンをようやく掴む冬前にして 佐々 敦賀節子 

★朝明けにひかりの粒の集まりて有明海に小舟の浮かぶ 島原 本多たつみ

★角力灘より吹きあぐる風の冷たくてあぐりの丘の秋深みゆく 長崎 工藤洋六 

★「チャン」付けでわが名を呼ぶ人いなくなる九十六歳の叔父が旅立ち 諫早 金子哲也 

★郷愁に思いを馳せる古里の割れ目ささくれ錆びたブランコ 長与 相川光正

★古稀過ぎてこの諺を実感す「少年老い易く学成り難し」諫早 藤林東容 

★いまひとつ苦手意識のある人も縁だと思ひ細くつながる 長崎 廣松あさ子

★子の腕がギュッと抱きぬ夫とわれをこの温もりをきっと忘れじ 諫早 田中りつ子 

★夕暮れの書架にもどせる一冊に後髪ひかれ厨に立ちぬ 長崎 渡辺英子

★夫からの「まだ頑張れる」の幻聴に素直に頷き明日を生きたし 雲仙 峯 敏子

★忘れじの島鉄に乗り影を連れ 今は無人の古部駅に行く 長崎 小島茂之 

★鴛の飛来途絶えし古池の静けさ破り合鴨騒ぐ 諫早 野崎治行

★明日朝の食パンが一枚も無いからと妻に言われりゃしぶしぶと行く 諫早 井上俊英 

★ばあばにはばあばの悩みがあるんだよ幼き孫に聞いてもらいぬ 諫早 遠藤祐子

★空腹に寝ても覚めてもパンのこと一日を生きるガザの 人々 諫早 馬渡壽人

★父母は何も知らずにいるだろうかそれとも天から見てるだろうか 諫早 野田明美 

★風邪気味の一人の雑炊味気なく咳こぼしつつそそくさと夕餉 長崎 松本テツ子

★「お接待」千々石の里で情け受け草払いの疲れはやも消えゆく 諫早 富永千代可 

★「アミュ」帰り車中に街の賑はひの余韻に酔ひぬ秋の夕暮 南島原 川口誠一 

★古稀迎え古き友とのランチ会笑いとともに語り合いたり 諫早 森 志保 

【選者詠】残ん生はただゆらゆらとつたなくもおぼつかなくもしづかに行かむ


◎柳壇 井上万歩選 題「愛妻」

★買い物も認知の妻の手を引いて 長崎 伊東妙子

★愛妻の好きなおかずをそっと置く 長崎 横山秋子

★よく笑う妻が居たから坂も越え 新上五島 鼻崎則子 

★愛妻の料理で卒寿祝われる 長与 竹馬亮二 

★妻ファーストいつも忘れぬ愛妻家 長崎 吉永詩織 

★愛妻はすでに天国ひとり酒 長崎 森尾恭二 

★愛妻と言うより今は妻頼り 波佐見 山内禮次郎 

★お互いに介護を習う愛妻家 長崎 辻 保雄

★愛妻の内助の功で今の幸 大村 福谷健吉 

★愛してると妻には言えぬ戦中派 長与 渡部克子

★愛妻弁当社長は今も持たされる 長崎 上野幹夫

★飲み会は先に失礼愛妻家 長崎 松添春樹

★愛妻家定時連絡怠らぬ 長崎 古本 仁

★愛妻と転ばぬように手を繋ぎ 壱岐 瀬川美枝子

★愛妻家伝書鳩かと揶揄される 長崎 西畑伸二

★愛妻と乗り越えてきた今日の幸 長崎 中村行男

★クラス会愛妻ぶりを自慢する 長崎 井上須美子

【選者吟】病妻の看病をして逝くつもり


◎「短歌(うた)ありて」


★一葉もまとわぬ公孫樹の凛と立つこんな露(あらわ)になれるか我は 岡本 博

 黄色いマントを着て、青空に抜きん出ていた大イチョウ。今、境内には黄色の波が広がっている。大樹がすっかり落葉した光景を初句、二句が言い得て妙。貫禄があり、存在感がある。また、三句の「凜と立つ」には、その思いが深い。作者はあらためて大樹を見上げ、自身に問いかけている。「露」という言葉の持つイメージが、男性的な様相を呈する。まさしく「禅問答」を交わすかのようである。的確な言葉を選び、倒置法を用いて、ひしひしと迫ってくるのである。今年の第17回諫早市民文化祭文芸大会短歌部門、長崎新聞社賞受賞作。 (水甕・前田靖子)


★愛とはと問いし人ありためらわず言う「許すこと」許せぬくせに 岩間郁子

 きっと作者は「愛とは許すこと」という言葉を胸に深く刻んでいたのであろう。しかしながら実際は簡単に許すことなどできはしない。この歌のあまりにも強い結句に一瞬たじろいでしまった。だが、それは思いどおりにならない自身に対するふがいなさや怒りのあらわれであり、それこそが「許すこと」のできる自分になろうとする確かな一歩なのかもしれない。今年の第17回諫早市民文化祭文芸大会短歌部門、長島洋子選佳作作品。同じく江頭洋子選1位の作品「空蝉と散り残りたるさるすべりひそひそ話の風にのり来る」。内容もさることながら漢字とひらがなのバランスが秀逸。(幻桃・岩﨑勢津子)


◎今日の「郷土文芸」欄は、他すべて、11/19に行われた「第63回県文芸大会」の入賞作品が発表されていました。私は仕事で参加出来なく、資料もまだ送られて来てませんので私にとって新情報です。

内容は、後日、わかりやすいように活字にしてまた投稿します。

◎一面「きょうの一句」は↓。牛飼さん、この欄の新選者になられました。

また、「きょうの一句」はあとで一週間分を投稿します。