11/26NHK俳句、選者・高野ムツオさんの時の特選9句。題「手」。(NHK俳句HPより)

の手が銀河にとどく肩車 東京都足立区 大和田博道さん

    〈評〉「あれが天の川」と父の声。肩車された子供が、「見つけた、天の川だ!」と両手を広げた。現実に銀河に手が触れるはずはないが、親子の心の中では、間違いなく銀河に触れている。

★手に蓋をして団栗は宝物 大分県玖珠町 大野洋子さん

    〈評〉公園の楢の木の下あたりから見つけて拾ってきたのであろう。小さな団栗なのに手のひらに手のひらで蓋をする。手もかなり小さい。母親の前で今、手の蓋を開こうとしているに違いない。

★スケートの手解きや手を取り合うて 東京都中央区 久塚謙一さん

    〈評〉若いカップル。スケートが初めての彼女の手を取って、そろそろと氷上に出てきた。中七から下五 へ流れるゆったりしたリズムと「取り合うて」との音便が二人を見つめる作者の優しさを伝える。

★手袋のまだ掴もうとする形 秋田県大仙市 鈴木仁さん

    〈評〉帰宅して脱ぎ捨てた手袋でもよいが、路上に落ちていたものとしたい。革手袋だろう。「おいて行かないで」と持ち主の裾を摑もうとしている。

★早々と皸一号薬指 群馬県渋川市 星野芳美さん

    〈評〉毎年、皸に悩まされているのだろう。木枯らし一号のニュースに思わずわが手を眺めた。なんとまず薬指に皸。塗り薬の準備を急がなくっちゃ。

同棲の手相みせあふ炬燵かな 東京都 桜鯛みわさん

    〈評〉学生同士だろうか。炬燵に寄り添って入っている。感情線に生命線、財運線に結婚線。さて二人の運命線はどんな人生を示しているのだろう。

★石焼芋右手左手はほはほと 神奈川県横浜市 中野誠一さん

    〈評〉「いーし焼き、栗よりうまいよ」の呼声に思わず買った石焼き芋。熱い、熱い、両手を行き来させながら息を吹きかける。そのさまが実にリアル。

★手をつなぐ日々は短し鼓草  愛知県名古屋市 山田由美子さん

    〈評〉仲睦むつまじい親子。自分もかつて同じように子供と手を繋つないで語り合った。その珠玉のような時間を道端の蒲た んぽぽ公英の眩まぶしさに思い返している。

★手のひらに疼くすいばり冬支度 山口県萩市 新井文江さん

    〈評〉「すいばり」は山口県あたりで「ささくれ」を指す方言。風除けの仕事でもしていたのだろう。うっかり刺したとげの痛みに冬到来を実感している。