11/27長崎新聞「郷土文芸」(4) 句集紹介西史紀著『星の声』(紹介者は犬塚泉さん)
長崎新聞「きょうの一句」 選者としても活躍する長崎市の俳人、西史紀さんの第2句集。323句を新年と春夏秋冬の5部に分けて収載した。前集に続き、読み手を思わずクスッとさせる愉快でポップな趣に満ちる。表紙デザインを担当し た絵手紙作家、川野耐子さんとのタッグも続投。親しみやすい装丁と内容で、俳句愛好家以外にも読者を広げそうな一冊だ。
★賀状とふ生存証明書届く
★教へ子のはや定年といふ賀状
★ぽつぺんを吹けば忘れし人の顔
★万愚節知能線とふ皺ひとつ
1950年生まれで、長く教職を務めた。老いに直面する日々のトホホなぼやきを五七五のリズムに乗せつつ、まだまだ気力十分。
★碁敵と句敵のゐて新年会
★スーパーの七草セットセロリ入り
★どんど火へ放り込みたるラブレター
★渾身の一句詠みたき櫻かな
見事な桜を前に苦吟する自分を、さらに俯瞰して見ている自分。そんな視点が作者特有のおかしみを生む。
★禁酒から節酒と替へて新走り
★敵は今本能にあり新走り
★もう一粒あと一粒と葡萄食ぶ
★手の届く柿に目星を付けておく
★春雨や仏壇にある二千円
★よく揚がる凧とはやされ下りて来ず
★大仏の大きな耳に蝶止まる
面白い瞬間を逃さない観察力の鋭さ。ところどころに登場する猫は、まるで本書にすみ着いたキャラクターのように、コミカルに戯画化されている。
★恋猫のピンと尻尾の感嘆符
★看経(かんきん)の声に唱和し恋の猫
★満月の下の恋猫沸騰す
★短夜や猫の鼾を聞きながら
★焦げ臭き猫の昼寝を裏返す
★長き夜の猫はさつさと寝てしまひ
ユーモラスな句調に包みながら、現実社会のありようについても敏感な視線を向ける。
★たぷたぷの水をこぼすな春の地球(ほし)
★フクシマ忌からんとはれて十年目
★この星に戦火は絶えず霾(つちふ)れり
★沖縄は今も戦中海紅豆
★自販機に水買ふ時代原爆忌
★大銀河核持つ星は唯一つ
★戦争が嫌で海鼠は海の底
句集タイトルは「億光年の星の声聴く冬木立」から採った。あとがきに「『☆ の聲』としてみてはどうかという、悪戯心が顔を出そうとした」と付け加える作者は、どこまでも軽妙で読者をけむに巻く。
文學の森刊。3300円。問い合わせは西さん(電095.857.4233)。
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※『星の声』の帯裏側
★恋猫のピンと尻尾の感嘆符
★ソーダ水小さな泡のごとき嘘
★鰯雲飲み込む河馬の大欠伸
★蓑虫の一糸に託す死生観
★柿穫りて箱に夕日を並べゆく
★新豆腐水とひかりを漉して売る
★少年に雪の不思議のあったころ
★冬の蝶陽を拾ひつつ零しつつ
★空を飛ぶ夢が見たくて羽根布団
「妻による選十句」と書いてありますね。西さんらしい。「好きな句を10句ぐらい選んでみて」と奥さんに言っている西さんの姿が目に浮かぶようです。
※西史紀第一句集『囀りの木』「被爆楠いま囀りの木となれり(西史紀)」
https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12538749761.html