11/26朝日俳壇・歌壇。

◎高山れおな選

★空っぽがかっぽしているあきの空(東村山市)内海 亨

★啄木鳥の音微かなり盛んなり(香芝市)土井岳毅 

★フェルメールの光溢るる竈猫(大阪府島本町)山岡俊介

 【評】《牛乳を注ぐ女》なら竈猫も似合いそうだ。

★駅長も駅員も猫山眠る(鴻巣市)清水基義

★落葉踏む父八十の痩せ柱(神戸市)豊原清明

★天赦日混み合ふ宝くじ売場秋(武蔵野市)相坂 康

 ※「天赦日(てんしゃにち・てんしゃび)」=先祖からの罪を赦す、または自分の罪を離れる、ことを表すこの上ない吉日。何をしてもうまくいく日とされる。天赦日は年6〜7回ある。

★新米のおむすび宮古島の塩(東京都)伊東澄子


◎小林貴子選

★老いの焚く内燃機関冬に入る(東京都)吉竹 純

★モップかけ終へて体育館夜寒(所沢市)木村 佑 

★勝ち負けの好きな生き物秋の風(南房総市)山根徳一

★等伯を熱演能登の文化の日(埼玉県宮代町)酒井忠正

 【評】今年の国民文化祭の一環として仲代達矢さんが演出。

★いつまでもながめる男松手入れ(川崎市)小関 新

◎長谷川櫂選

★戦争がまたも茶の間に立つて秋(昭島市)大関崇央

 【評より】〈戦争が廊下の奥に立つてゐた(渡辺白泉)〉。

★蘇州号で渡る上海秋の海(米原市)米澤一銭

★七輪(かんてき)といふ語懐かし初秋刀魚(千葉市)愛川弘文 

 ※「かんてき」は癇癖、おこりっぽい性質→なまり「かんてき」=火が熾りやすい。

★ストーブに遠く膝抱き眠る人(高山市)直井照男

★琉球の声に聞き入る夜寒かな(京丹後市)小谷正和

★老妻の起床に安堵秋の朝(長崎県小値賀町)中上庄一郎

★動物の残してくれし栗拾ふ(対馬市)神宮斉之


◎大串章選

★憎しみの連鎖いくさの冬深し(福島県伊達市)佐藤 茂

★枯野行く戻りの余力図りつつ(大和郡山市)宮本陶生

★蓑虫の蓑の中にも夢一つ(八王子市)額田浩文

★受勲者に俳人さがす文化の日(島根県邑南町)椿 博行

◎高野公彦選

★駅ピアノにショパン弾きたるイスラエルの青年は今ガザを撃てるや(秩父市)畠山時子

☆腕に名を書かれなければならぬ理由(わけ)ガザの児は知る誰言わずとも(堺市)芝田義勝 

 ※万が一の時、身元確認の為に。佐佐木幸綱共選。

★黒人の女性の歌うSUKIYAKIを独房に聴く甘き憂鬱(アメリカ)郷 隼人 

 【評】久しぶりの郷さんの作品。

★一万年縄文人は野に暮らし核の世われらはあと何年生きる(門真市)前田喜代美 

★行かずが上、日帰りは中、泊まるは下 訪問マナー祖母に教わる(千葉市)山口麻理

★蝶の影蝶を離れて命あるものの如くに路上に弾む(鴻巣市)松橋雅実 

★断捨離し残せし一冊携へてあの世で読まむ「悪魔の辞典」(沖縄県)和田静子


◎永田和宏選

★まだ書けぬ己が名腕に記さるをガザの幼は見つめてをりぬ(中津市)瀬口美子

★乳のみごの服を鋏で切りひらきガザの医師団オペをはじめる(稲沢市)伊藤京子

★モザイクがかかって見にくい物体が遺体だと知るまでの三秒(五所川原市)戸沢大二郎

 【評】冒頭3首、死を前提として腕に名を書かれる幼な、服を切り裂いて為されるオペ、そしてモザイクの中のリアルな遺体。メディアを通じてではあるが、直接目にする光景の迫力が凄まじい。

☆ラジオより キュー・サカモトのSUKIYAKIが突然流れ来日本を想う(アメリカ)郷 隼人② 

 【評】久しぶりの郷隼人さんの投稿が嬉しい。

 ※馬場あき子共選。「アメリカの刑務所から。久しぶりの投稿に安堵。」(馬場あき子)

★泣きながらぎゅっとどんぐり握ってた少年のまま七十超える(浜松市)久野茂樹 

★三メートル四方に増やしたフジバカマ旅の途中の蝶は訪ね来(松阪市)こやまはつみ

★ミャンマーの少年は地雷を踏んだと比喩ではなくて本当に踏んだ(東京都)福島隆史


◎馬場あき子選

★怪我の子を抱きて「神よ」と叫びつつ瓦礫のなかを走る父親(観音寺市)篠原俊則

 【評】毎日のように映像で報じられるガザ攻撃の状況。その中から戦争の悲惨な現実を永遠に訴え残そうとする歌が沢山投稿されている。第一首、第二首はその中から選んだ。

★腕に名を油性のペンで書かれつつ父親の顔覗くガザの子(堺市)芝田義勝

★原爆の実相伝える資料館十四言語の音声ガイド(東京都)佐藤研資

★画面から室堂平で鳴り響くピアノの音色聞こえくる朝(石川県)瀧上裕幸

★逆立ちで柱をつかみ産卵す大カマキリが目で威嚇する(島根県)大野重子

★「クマっぷ」はかわいい名だが恐ろしき熊出没を示す地図なり(富士市)村松敦視

★乳幼児学級の子等駆け回る柔道場の畳の優しさ(関市)武藤 修


◎佐佐木幸綱選

★宝石を拾ったようなこころもち白寿を過ぎしひと日ひと日は(我孫子市)松村幸一

★涙目の少女に会いに青森へ惜しくはなかった弾丸ツアー(下呂市)河尻伸子

 【評】青森県立美術館で開催中の奈良美智展に取材した作。

★かわいいというイメージが崩れ去りクマさんの絵を描けないでいる(横浜市)菅谷彩香 

★猪が大通りへとやってきて街と森とが不意に近づく(宇都宮市)渡辺玲子