俳句ポスト、兼題「夜長」の月、金曜日。特選三句
★看護師が夜長に薄き線を引く
蘭丸結動
〜(選者夏井いつきさん選評。以下同じ)病室の夜は殊更長いのです。夕飯は六時ぐらいには終わってしまうし、消灯は九時だの九時半だの。そこからの夜の長さは、秋ともなれば尚更のこと。痛い痛い辛い辛いと寝返りを重ね、うとうとと過ごす夜長。数時間ごとの夜勤看護師の巡回。その実感を「夜長に薄き線を引く」という措辞で、一気に詩にしてしまうテクニックに脱帽しました。
★長き夜や「こゝろ」を閉じた手を洗う 常幸龍BCAD
〜「こゝろ」は夏目漱石の小説。秋の長い夜をかけて、今、読了したところでしょうか。投げかけられた重いテーマを受けとめかねて、しばし頁を閉じたのかもしれません。「手を洗う」は、己の心のありようを己自身に問いかけるための儀式のような行為かもしれません。答えのない答えを探して、丁寧に手を洗う「長き夜」の静けさ。ひややかな水のかすかな音。
★水槽へ夜長のパンを餌として ぐでたまご
〜「夜長を過ごす相手=水槽の魚」という発想の句はよく見ますが、季語の使い方に工夫があります。中七「夜長のパン」は、小腹がすいてのパンでしょうか。(夜食・食欲の秋などのイメージともリンク。)齧ったパンの粉を水槽へ落とします。グッピーか目高の類か、次々に水面に上がってくる魚たち。そのさまを愛でつつ無聊をかこつ夜長です。
○次回の題「霜」(三冬/天文)
空気中の水蒸気が、草や地面の表面などに氷の結晶となって付着する現象。よく晴れた夜の翌朝に見られることが多い。
傍題に、霜の花・三の花・青女・はだれ霜・霜だたみ・霜夜・霜の声・霜晴・霜日和・霜凪・霜雫・大霜・深霜・濃霜・強霜・朝霜・夜霜、など。
「霜の声」は、霜の降る気配を声にたとえたもの。「青女」は霜を降らせる女神のことで、転じて霜そのものの例えにもなっている。放射冷却にともなう現象であるが、風もなく晴れた日であることから「霜日和」「霜凪」のように穏やかな印象の言葉も。
傍題の使用も可ですが、まずは兼題と真正面から取り組む、というのが俳句ポストの趣旨。
※締め切りは、11月19日。