7/23NHK短歌。グッとくる瞬間「見上げる」。選者は岡野大嗣さん、ゲストは知花くららさん、司会は尾崎世界観さん。

【知花くららさん】1982年沖縄県生まれ。本名は上山くらら。夫は俳優の上山竜治。上智大学文学部教育学科卒。2006年、第55回ミス・ユニバース2006世界大会第2位、ベスト・ナショナル・コスチューム賞。2015年、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」で津田梅子役を演じて女優としてデビュー。2019年、京都芸術大学通信教育部建築デザインコース入学、2021年、卒業。2022年、二級建築士試験に合格。大学在学中、フランス、スペインに滞在しフラメンコを学ぶ。永田和宏・河野裕子『たとへば君』を読んだことをきっかけに2013年より短歌を作り始め、塔短歌会に所属、2017年第63回角川短歌賞で「ナイルパーチの鱗」50首で佳作を受賞。2019年、第一歌集『はじまりは、恋』を刊行。

★ちかごろは子どもみたいに笑ふねとビールを飲みほすゆふぐれの母 知花くらら


◎岡野大嗣さんの「見上げる」短歌

★月をみるこんな真上にあったから気づかなかった時間の後で 岡野大嗣

◎入選9首

★空を見る今日の野菜がぎっしりの買い物袋をぶら下げながら 宮城県石巻市 岩倉 曰

★運動会リレーで転んだ目の先に怖い顔したぢいちゃんがゐた 東京都葛飾区 福島隆史

★何回も飛ぶ夢を見るこの棟で一番地面に近い寝室 静岡県掛川市 桃園ユキチ

 ↑岡野さんの特選三席

★地下鉄の階段を駆けて入道雲ずっとむかしに女子高生だった 愛知県名古屋市 岡田捺那

 ↑知花さんが「グッときた」歌。岡野さんの特選一席

★働かずもらえる金を抱く帰路に見あげる別にデカくない月 京都府木津川市 喜多 抱

 ↑尾崎さんが「グッときた」歌。

★お仏壇(おぶっだん)を見上げてじっと掌を合わす早くわたしのおやつになあれ 京都府京都市 松尾留美子

★「びわやな」と見上げる父を見るために車椅子木の下にとめおり 大阪府和泉市 星田美紀

 ↑知花さんが「グッときた」歌。岡野さんの特選二席

★青空を見上げてよろこぶ人の中わたしは眩しいなって思った 兵庫県新温泉町 田中 佳

 ↑尾崎さんが「グッときた」歌。

★スクリーンに役所広司の迫力よまだ私にも涙が出るんだ 岡山県和気町 高原晴子

入選歌及び佳作は「NHK短歌テキスト」9月号に掲載されます。次回、高野大嗣さんへの投稿↓

◎「表現者の原点 知花さんの原点」

 《フラメンコ。かつて「音楽と本当に一体となって踊れないようでは本当のフラメンコではない」と言われたことがある。フラメンコを始めて、自分が初めて解放されたと思える瞬間であった。短歌も似ているかもしれない。》

◎知花さんの「見上げる」表現とその「タネ(背景)」

★蚯蚓(きゅういん)の腹に蠢く蟻散りて梅雨の冷たき気まぐれを仰ぐ 知花くらら

《梅雨のある日 娘と公園に行き 彼女が遊ぶのを見守っていたとき 私の足元には動かぬ赤茶色の蚯蚓(みみず) そして群がる蟻たちが 懸命に動き回る蟻たち これで巣にごはんを持って帰れるのだろう むせるような湿度に私の背中はじっとりと汗ばんでいた すると次の瞬間 蟻たちがパッと散った 雨は激しさを増す 蟻たちはどうなるのだろう 手ぶらで戻って誰かが飢えないだろうか 大切な誰かを守れるだろうか 「ママー 雨ー!」 という娘の笑い声が聞こえてきて 見上げた頬に当たる雨がひんやりと冷たかった》
★ママー、あめー、と降ってくる声散ってゆく蟻に暮らしの灯を見ていれば 岡野大嗣

◎「ことばのバトン」


(前回)

引き継ぐのは、山梨県の中学3年生の小宮山碧生君。小宮山君は今年の「歌会始の儀」(題「友」)で入選しています↓

★友の呼ぶ僕のあだ名はわるくない他のやつには呼ばせないけど 小宮山碧生

その友とは、新海光琉君、そしてあだ名は「ブルックス」↓

◎再放送は7月28日(金)午後2:10〜2:35。