2/1朝日新聞(地方版)俳壇。選者は荒井千佐代さん。
(評)「日脚伸ぶ」を「反物を展ぐるやう」と。常套な比喩ではなく五感を駆使した独自の感覚的把握。反物を展げる時の微かな絹の音、淡く美しく川の如く展げられた反物。紛れも無く春隣だ。
★音のして転がる薬三が日 (佐世保市)松山茂則
(評)日々服用の薬。転がったことも初めてではなかろう。それを「三が日」で詠んだ。身心共に開放された三が日故の新鮮な感受と整った措辞に淑気さえも漂う。大仰に構えがちな新年詠が身近となった。
★冴ゆる夜の画布にセーヌの舟明かり (長崎市)田川美根子
(評)夜遅く冷えた体で帰宅。外と変わらない程冴え冴え として薄暗い玄関。ふと壁に目をやると鈍色の画布の中にセーヌの舟明かりが。初めて認めた暖色の小さな点。作者は改めて己が家に在る事に安堵する。
(↑例えばこんな絵でしょうか。フランスのセーヌ川はフランス全土を流れる名河。多くの画家が描いているようです)
★花枇杷や内気な友に嫁来る (長崎市)寺田隆宏
★柩にはダンスシューズや虎落笛 (長崎市)碇 剣之介
※「茎の石」=大根や蕪などを茎や葉と一緒に塩漬けにする茎漬の際に使うつけ物石。冬の季語。
★九体仏に九の静寂寒椿 (佐世保市)相川正敏
★橋ひとつ島をつなぎぬ冬桜 (佐世保市)荒巻洋子
★投石の飛び跳ぬる音氷面(ひも)鏡 (佐世保市)小山雅義
★星散れり幣立宮の若井汲む (諫早市)中野久夫
※熊本県阿蘇の幣立神宮に行かれたのでしょうか。あまり知られていない「隠れ宮」で15000年(!)の歴史があると言われているそうです。主祭神は、古代の人々が相争うことを天の神が心配して地上に遣わしたという神漏岐命(かむろぎのみこと)と神漏美命(かむろみのみこと)の二柱の神。他に天御中主大神(あめのみなかぬしのおおかみ)、大宇宙大和神(おおとのちおおかみ)、天照大神の天地開闢に関わる係る神々。また境内には「伊勢の内宮」があり、「天照大神(日の神)が住む日の宮」とも言われているのだとか。
★牡蠣打や五島の島の隠れ里 (長崎市)佐々木光博
★火吹竹炉に立て掛けて冬北斗 (大村市)湯川京子
★生き様は父母に倣ひて花八手 (大村市)松本裕子
★梵鐘の殷殷として冬の島 (対馬市)神宮斉之
※「殷」は「なりひびく」の意。
★柊の花ほどの幸夫婦酒 (長崎市)樋口芳子
★焚火の輪遠き戦禍に心寄す (長与町)阿部順子
★初日つかむ太腕二本ご神木 (長崎市)野中ルリ
★百七の母に笑まひや春衣 (長崎市)古賀野成子
★初日の出老いて皺ぶく掌を合はす (大村市)高塚酔星
★忘れしこと思ひ出すまで葛湯とく (長崎市)團 俊晴
★野仏の供物をさらふ寒鴉 (長崎市)木下慈子
★老いて尚生きる喜び初句会 (長崎市)石橋やす代
★麻痺の手で書かれし賀状頂きぬ (島原市)馬場富治
★老身も少し弾みて雪の朝 (長崎市)根本慶明
★寒梅を見つけてはづむ山路かな (波佐見町)川辺酸模
★この町に住んで馴染んで畳替 (佐世保市)柴田洋太
【選者吟】凍蝶が発てりマリアの素足より
◎今日の長崎新聞一面「きょうの一句」