俳人協会「2023年俳句カレンダー」。10月。

★天高し子供歌舞伎の声高し 井坂 宏

★秋天や鳶の風切羽見えて 川又和子

★阿蘇五岳一望にして馬肥ゆる 塩野昌治

★遠くより声して砂丘秋高し 平間裕子

★縄文の連結土坑秋の声 和田洋文

★民宿の長き食卓きのこ飯 金崎雅野

★新米にふるさとといふ隠し味 村上喜代子

★新酒来る唐子遊べる壺で来る 中西夕紀

★新妻を荷台にのせて豊の秋 浅木ノヱ

★月山の水ふんだんに下り簗 鈴木正子

★天竜の闇を背負ひて鮎下る 北原昭子

★海溝に沿ふ海嶺や落鰻 松浦敬親

 ※「落鰻」=産卵のため海へ下る鰻。鰻は淡水魚だが、海で産卵、孵化を行い再び川や湖に帰ってくる。晩秋の季語。「下り鰻」とも言う。

★小鳥来る真昼に本を読む暮し 峰崎成規

★鵙の声碑の鍵盤に十措置く 工藤文子

東京の井の頭公園にピアノをあしらった、中田喜直の石碑がある。楽譜は「ちいさい秋みつけた」(作詞はサトウハチロー)。

★木の実降る翼の大き天使像 緑川啓子

★魯山人の皿に二つの富有柿 飯田酔亥

★平家塚守る山寺五倍子を干す 平田冬か

 ※ヌルデの木に出来た虫こぶは「五倍子(ごばいし)」と呼ばれ、苦みの成分として知られるタンニンを多く含み、昔から薬用や革のなめし、染料などに利用されてきた。

★迷ひなく枝切り落し松手入 守作青暢

★依代の欅老いたり秋祭 石田邦子

★ゆさゆさと懸崖菊を運び込む 梅田ひろし

★後の月ひとりに余る闇を抱き 柿並その子(プラチナ賞)

★弟が父に似てくる落花生 寺田幸子

★猿酒や森に陽気な鳥の声 内藤 繁

★一島を以て一村刈田道 伊東八峰

★紅葉晴れ平成新山正面に 永野濶子

★対岸に銀杏黄葉の金屏風 高橋玲子

★黒文字に飛び火のごとく蔦紅葉 永倉みつ

★鹿寄せのホルンの音色古都の旅 永田歌子