NHK全国俳句大会(6)各選者による特選・秀作作品。

★(題詠)目を伏せて行きしはもしや雪女郎 埼玉 瀬川節子

★ライバルの好走称へ合ふ炎暑 福島 伊藤とし子

★徘徊の夫や花咲く烏瓜 山梨 見高美代子

★夏草や表札はずす父母の家 福岡 花田京次

★終戦の日を百歳の母とゐる 香川 島田章平

★フクシマの土踏みしめて行く帰省 群馬 竹市 漣 

★行く秋や束ねて細き母の髪 愛知 浅野敏子

★(一席)初暦まづは農事と誕生日 愛知 横井美代子

★(題詠)もう風に乗り行く高さ鳥渡る 千葉 藤田 満

★田も畑も土くろぐろと初つばめ 広島 坂本たか子

★山眠る織部の茶碗深緑 福岡 原口すま子

★捌かれてくねるうなぎの声洩らし 千葉 北本善寛

★短冊のつつましき文字林火の忌 埼玉 遠藤 薫

 ※「林火の忌」=大野林火(1904〜1982)の忌日。8月21日。東京帝國大学経済学部→日本光機工業→に入社。1930年に会社を辞めて神奈川県立商工実習学校(現・横浜創学館高校)教諭。「濱」創刊・主宰。村越化石を見出した。元角川書店『俳句』編集長。「ねむりても旅の花火の胸にひらく」は有名。

★ビー玉のかち合う響き路地の春 北海道 八木澤 賞

行商の汗噴く母につけぬ嘘 長崎 桑村湖城

★(一席)引く波に石のころがる晩夏かな 神奈川 中村みつる 

★(題詠)行く秋やラジオの告ぐるスターの死 北海道 伊藤 哲 

★千年の音軋ませて鉾廻す 埼玉 福島一男

★向日葵や子供の涙すぐ乾き 東京 大西まりゑ

★亡き母の部室の広さや秋簾 神奈川 千原道子

★なだめつつ子の髪切りぬ柿若葉 新潟 曽我啓子

★眠る子の寝息に合わせ団扇風 三重 伊藤はじめ

★念入りに牛小屋に敷く今年藁 大分 蓮谷多美子

★子の癒ゆることのみ祈り今日の月 岡山 高村令子

★木犀の香りもろとも散りにけり 長崎 田川育枝

★行年を確かめ父の墓洗ふ 神奈川 渡辺壽子

★花吹雪浴びて柩の行きにけり 東京 出田清子

★吊るさるる鮟鱇我も口開けて 埼玉 佐野静子

★雪掻けぬ身となり降るを恐れ住む 岐阜 原田尚子

★父いまだ母に恋してパナナ帽 長野 宮澤羅夢

★窓越しに手を振る母や春日さす 千葉 後藤旦公

★落葉踏む車椅子より母下りて 徳島 田渕 明

★(一席)人はまだ君の死知らず冬の虹 兵庫 杉本美佐子

★(ニ席)ぬり絵して夜学の母を待つ子かな 岐阜 近藤周三 

★虫干しのへその緒三つ妻の古稀 茨城 山口富雄

★山の子や卒業証書の紙を漉く 静岡 川元小夜子

★今、わたし誰も責めない若葉風 福岡 生野 薫

★逝きし子に捧ぐ二月のチョコ苦し 東京 幸山明江

★子を預け手を振る母の息白し 東京 久保修平

★徘徊の夫や花咲く烏瓜 山梨 見高美代子

★朝顔の種見せに行く保健室 東京 和田眞美

★(一席)柿百個ひとりの空に吊しけり 群馬 多胡恵美子 

★(ニ席)妹はおまけの金魚ばかりかな 岡山 高原晴子 

 (評より)金魚掬いを失敗して、おまけに金魚をもらう。挑戦するたび失敗するから、またもおまけをもらってしまう。(略)妹をいとおしむ柔らかな思いが表れている。

★(題詠)川は行き山椒魚はとどまれり 神奈川 川田 潔 

★やや寒の灯を消すけふを消すやうに 神奈川 松原ふみ子

★汗みどろ半日脱げぬ防護服 福岡 田島 閑

★今、わたし誰も責めない若葉風 福岡 生野 薫

★雪庇(せっぴ)切るばばの背筋はすっと伸び 新潟 島田文代

 ※「雪庇(せっぴ)」=雪の積もった屋根から雪がせり出している状態。それを屋根に登って切落とす作業は大変危険な作業。

★夫の忌の空の高さを哀しめり 静岡 川瀬明海

★げらげぢのパーティーのごと現るる 島根 高木房代

★人住めぬ町の万朶の桜かな 千葉 渡辺英明

★人はまだ君の死知らぬ冬の虹 兵庫 杉本美佐子

★決行の知らせ兄へと檸檬投ぐ 長野 瀬まさあき

★歩行器にふんばる吾子や小鳥来る 兵庫 大西弘子

★(題詠)決行のしらせ兄へと檸檬投ぐ 長野 古瀬まさあき

★雪沓を渡され鬼の役をつぐ 神奈川 柳原白眞

★(一席)小さくとも掲げて帰る熊手かな 千葉 飯嶋政江 

★(題詠)島中に行進曲や運動会 東京 山田あや子 

★水の声木の声細り山眠る 愛知 渡辺美智代

★向日葵や子供の涙すぐ乾き 東京 大西まりゑ

★いつとなくいつまでとなく冬桜 香川 合田 豊

★また一戸無人となりぬ虎落笛 宮城 伊藤拓郎

★柿たわわ一度は捨てしわが故郷 千葉 湯浅康右

★曉闇の靄払ひゆく蜆舟 千葉 橘 良彦

★芋畑より白球の返さるる 東京 矢野みはる

★人住まぬ町の万朶の桜かな 千葉 渡辺英明

★和太鼓の鼓動ラムネの泡跳ねる 大阪 磯口順一

★(一席)父いまだ母に恋してパナマ帽 長野 宮澤羅夢 

★(二席)保育器の中の万歳冬ぬくし 群馬 竹市 漣 

★悪役を生業として笑初め 神奈川 高浪國勝

★古日記余白の中にある記憶 愛知 加納寿一

★決行のしらせ兄へと檸檬投ぐ 長野 古瀬まさあき

★(題詠)春宵や母の行李に吾の写真 神奈川 宮崎玲子

★緑蔭に入りて胎動確かむる 徳島 三木光風

★桃の日や父の頬ずりうばりあひ 長野 松尾ふさ子

★それぞれの祖国を語る聖夜かな 東京 枡野雅憲

★病む妻のひと言よりの夜長かな 東京 林たかし

★初夏の風を握りて吾子立ちぬ 福島 湯田一秋

★行く道を決めたる子より初電話 神奈川 伊藤仁美

★行くあての無き民多し鳥渡る 埼玉 須賀遊子

★(二席)遠足の整列点呼被爆の木 愛媛 竹本桂子

★風船をくばるピエ口の目に涙 大阪 大西きん一

★人住めぬ町の万朶の桜かな 千葉 渡辺英明

★とうすみの水やはらかき倭かな 徳島 神野喜美

 ※「とうすみ」=糸蜻蛉。

★囀りや草履添へある西行像 広島 坂本たか子


◆大会大賞作品(3句)は3/27に発表されました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220327/k10013554581000.html

3万6700余りの作品から選ばれたのは、


★雨雲の行く手や蕎麦の花明かり 広島県 貝原玲子さん(88)


「台風が近づくなか雲の行方を気にしながら出かけた友人との旅行での光景を詠んだ句」だそうで、「灰色の雨雲と白い蕎麦の花が一面に咲いている明暗の対照が美しい」などと評価されました。


★人はまだ君の死知らず冬の虹 兵庫県杉本美佐子さん(61)


「海外勤務をしていた夫が帰国の直前に亡くなり、コロナ禍のため親しい人にも知らせることができなかったころ見た虹が心に残り詠んだ句」だそうで、「失ったばかりの張り詰めた心が表現されている、純粋で透明な作品」だと評価されました。


★一斉に灯し聖樹を驚かす 北海道 すずきなずなさん(46)


「クリスマスツリーに点灯した瞬間、ツリー自身がびっくりしているのではないかと思い詠んだ」そうで、「点灯を見守る人々の様子が伝わり捉え方が新鮮で楽しい」と評価されました。


私が勝手に予想していたのは、予想1番には「もう風に乗り行く高さ鳥渡る」、予想2番目には、「小さくとも掲げて帰る熊手かな」「初暦まづは農事と誕生日」「人はまだ君の死知らず冬の虹」「決行のしらせ兄へと檸檬投ぐ」でしたが、この内の一つ「人はまだ君の死知らず冬の虹」だけが当たりました。個人的な願望としては、SNS上での知り合いですので古瀬まさあきさんの「決行のしらせ兄へと檸檬投ぐ」でありましたが。


◆大会のもようが、5月1日午後2時半からEテレで放送されるそうです。


(7)龍太賞に続きます。