11/11の朝日新聞より。迢空賞を受賞した歌人 三枝昂之さん。

ひと 迢空賞を受賞した歌人 三枝 昂之(さいぐさたかゆき)さん(76)


若い頃は高い山に囲まれた暮らしが息苦しく、東京の高校に進学した。それから約60年。故郷・山梨への思いを核とした第13歌集 「遅速あり」で今春、歌壇の最高峰とされる迢空賞を受けた。


 〈病むことも命のかたち甲斐が嶺に抱かれながらおみなは祈る


18歳で亡くした父の影響で歌を始め、早稲田短歌会に所属した。五七五七七に縛られた短歌は「奴隷の韻律」と思っていた。だが安保闘争をうたった岡井隆さんの歌集を読み、思想表現を担う最先端の詩型だと確信する。定時制高校で教えつつ、のめり込んだ。


主宰する結社「りとむ」では、遺歌集「滑走路」が映画になる萩原慎一郎さんも熱心に詠んでいた。「非正規歌人」として注目された彼への挽歌も受賞作に収められた。歌会は大切な居場所だった、と両親は今も感謝する。 


温かなまなざしと風通しのよい場づくり。根底に、小学4年から2年間、脊椎カリエスで寝たきりの生活を送った体験がある。大病に見舞われた40代は妻で歌人の今野寿美さん(68)に支えられた。


故郷への見方が変わったのは7年前、山梨県立文学館長に就任してからだ。川崎の自宅から通ううちに「山に抱かれていたのだ」と気づき、冒頭の歌も生まれた。 


「短歌の基本はめでること。制限があるからこそ心の表現を導く。かなりタフな詩型だと思います。」(文・佐々波幸子 写真・迫和義)


私も各出版社さんの宣伝記事やブログの方々の記事を読ませていただき『遅速あり』の中から好きな歌を拾ってみました。


▪️里山に木の葉すくいて挙がる声おのこごの声その父の声

▪️二十日月の明るさを言うメールありいつの世も人は人に告げたき

▪️寒林に枝打つ音が響きたり一人の男の一つの戦後

▪️翳りなきあかるさとして素枯れたる一樹一樹も甲斐のみほとけ

▪️冬枯れのこの国原に薪を割る音がひびきて年あらたなり

▪️草木に人の暮らしに遅速ありて春の光の彼岸近づく

▪️母の背で揺れながら見し花火あり甲府七夕大空襲の

▪️どこまでも行きてどこにも届かざる青春という一樹の桜 

▪️七草に六つ足りないなずな粥仮のこの世に二人して食む


三枝昂之歌集『遅速あり』2019/4/20 砂子屋書房刊(本体3000円+税)


以前も一度取り上げました↓。

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12591192719.html


https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12591198227.html