◎「第54回 蛇笏賞・迢空賞」の受賞作品「迢空賞」三枝昻之歌集『遅速あり』。「蛇笏賞」柿本多映句集『柿本多映俳句集成』についての簡単なレポート。
※「蛇笏賞」「迢空賞」=日本詩歌の興隆に力をつくした飯田蛇笏、釈迢空(折口信夫)の遺徳を敬慕し、世々に語り継ぎ、日本詩歌の振興に一層の努力を期すことを目的に設立された賞。詳細は↓に、
http://www.kadokawa-zaidan.or.jp/kensyou/dakotu
※両賞とも前年の1月から12月の間に刊行された句集および歌集を対象とする。贈呈式と祝賞会は6月に開催。
※主催は、日本の文化振興に寄与するための事業を手掛ける公益財団法人 角川文化振興財団(理事長:角川歴彦)。
※蛇笏賞選考委員は、片山由美子・高野ムツオ・高橋睦郎・長谷川櫂の各氏。迢空賞選考委員は、佐佐木幸綱・高野公彦・永田和宏・馬場あき子の各氏。選考委員会は4月15日と17日にテレビ会議にてが行われた。
※選考委員会などの内容は、5月25日発売の『短歌』6月号(角川文化振興財団発行/KADOKAWA発売)に掲載される予定だそうです。
◎「第54回 迢空賞」三枝昻之(さいぐさたかゆき)氏 歌集『遅速あり』(2019年4月 砂子屋書房刊)
○『それぞれの桜』(2016年刊)に続く第13歌集。平成22年から30年の作品から、前歌集に収録しなかった作品を収録。
○収録作品より。
▪️里山に木の葉すくいて挙がる声おのこごの声その父の声
▪️二十日月の明るさを言うメールありいつの世も人は人に告げたき
▪️岸に待つ暮らしがあればひと筋の水脈(みお)を広げて帰りくる船
▪️寒林に枝打つ音が響きたり一人の男の一つの戦後
▪️翳りなきあかるさとして素枯れたる一樹一樹も甲斐のみほとけ
▪️水張田となりてととのう出羽の国かなたに雪の月山を置き
▪️冬枯れのこの国原に薪を割る音がひびきて年あらたなり
▪️読んで、来て、訊いて、語って、泡盛を飲んで、沖縄はいまなお見えず
▪️枇杷釉のぐいのみに呼び止められて二、三歩戻る菊屋横町
▪️もうニュースは消しておのれに戻りたり非力な非力な言葉のために
○三枝昻之さん略歴
・1944(昭和19)年1月3日山梨県甲府市生まれ。76歳。
・早稲田大学高等学院進学のため上京。弟浩樹とともに歌誌「沃野」に入会し、植松寿樹に師事。早稲田大学(政治経済学部)へ進学し、早稲田大学短歌会に入会、佐佐木幸綱や福島泰樹と知り合う。
・早稲田大学卒業後、都立高校の社会科教師となり、初任校で先輩教諭だった馬場あき子と交友を深める。
・1969年、福島泰樹、伊藤一彦、三枝浩樹らと共に「反措定」を創刊。
・1978年、馬場あき子主宰の結社誌「かりん」に入会。
・1992年、三枝浩樹、今野寿美と共に歌誌『りとむ』を創刊、主宰。
・日本歌人クラブ会長。山梨県立文学館館長。宮中歌会始選者。
・歌集『やさしき志士達の世界へ』『水の覇権』『地の燠』『暦学』『塔と季節の物語』『太郎次郎の東歌』『甲州百目』『農鳥』『天目』『世界をのぞむ家』『上弦下弦』ほか
・著書『現代定型論 気象の帯、夢の地核』『うたの水脈』『昭和短歌の精神史』ほか
・受賞歴。2002年第7回若山牧水賞。2006年第14回やまなし文学賞。第17回斎藤茂吉短歌文学賞。第56回芸術選奨文部科学大臣賞(評論その他部門)。第4回日本歌人クラブ評論賞。第4回角川財団学芸賞。2009年第32回現代短歌大賞。2010年第59回神奈川文化賞。2011年紫綬褒章。
◎「第54回 蛇笏賞」柿本多映(かきもと たえ)氏 句集『柿本多映俳句集成』(2019年3月 深夜叢書社刊)
○既刊句集完全収録に加えて、句集未収録作品1500句余りを収録。
○帯にある柿本さんの自選7句。
▪️天体や桜の瘤に咲くさくら
▪️立春の夢に刃物の林立す
▪️水平に水平に満月の鯨
▪️人の世へ君は尾鰭をひるがへし
▪️末黒野をゆくは忌野清志郎
▪️おくりびとは美男がよろし鳥雲に
▪️誰の忌か岬は冬晴であつた
○柿本多映さん略歴
・1928(昭和3年)年2月10日滋賀県大津市生まれ。92歳。本名は妙子。実家は寺院の園城寺(三井寺)。京都女子専門学校(現・京都女子大学)卒業。
・当初は短歌に携わるが、1951年の結婚を機に作歌から遠ざかり、1976年、西部大津教室にて句作を開始。1977年、赤尾兜子の『渦』入会。1981年に兜子が没してのちは橋閒石、桂信子に師事。『草苑』『白燕』『犀』同人を経て、現在は無所属。
・現代俳句協会名誉会員、日本ペンクラブ会員、日本現代詩歌文学館評議員。
・句集『夢谷』『蝶日』『花石』『白體』『肅祭』『仮生』など。
・著書 エッセイ集『時の襞から』『季の時空へ』
・受賞歴。1988年第35回現代俳句協会賞。2014年第29回詩歌文学館賞。