✏『俳句界』4月号〈4〉。「特集 横山白虹」より「横山白虹第一句集『海堡』再読」(宇多喜代子)。以下要約です。

イメージ 1

横山白虹は磊落と繊細を同時に備えたとびきりのダンディで、文化全般への造詣が深く、ことに大正から昭和へかけての俳句と俳壇の場で不断の行動を続けた一人。

「天の川」「傘下」など、九州から発行されていた新興俳句系の俳句誌を経て、昭和12年には「自鳴鐘(とけい)」を創刊している。16歳から詩に親しみ、20歳を過ぎて俳句を始め、「自鳴鐘」を創刊したのが38歳という円熟のとき。この間の句から成る『海堡』は、この時期だったからこそ書けた瑞々しい連作の句集である。

私がことに好きなのが、35句からなる「役の行者」。昭和11年作。

★快鳥(けちやう)たつ梢(こずゑ)も地震(なゐ)にうちふるへ
★棧(かけはし)に血(ち)ねれし母(はゝ)を抱(だ)きのぼる
★葛城(かつらぎ)の山鳴(やまな)り夏(なつ)の明(あ)け易(やす)く

全句にルビを付す。坪内逍遙作の舞台「役の行者」の感興を作品にした俳句。平面的な景を重厚な言葉で立体化した意欲作。

『海堡』には、「よろけやみ」「出航」「陸軍病院」などの連作があり、横山白虹が新興俳句の方向や技法を基調にした俳人であることを歴然と表している。

★よろけやみくらきにをりぬ夜の秋
★雪霏々と舷梯のぼる眸ぬれたり
★傷兵にヒマラヤ杉の天さむざむ

句集の後記に「昭和十年来作品の新情緒主義を指摘して之を奉じ、季語は表現技法の至妙なるものであると共に飽く迄も表現技法に属するものとの見解を持してゐる」と述べた。

季語絶対の立場ではないことをここで表明していることも、白虹俳句の大事となるところであろう。

★ラガー等のそのかちうたのみじかけれ

は歳時記での「ラグビー」の例句として季語の役目を担いつづけてきたが、この句の製作時の白虹に季語採用の意識があったとは思われない。無季俳句として作られている句だ。

俳句の連作という構成の形式は全体で主題、詩世界を標榜し、尚且つ一句の独立を志向する発見である。ほぼこの方法で成立させた横山白虹の句集『海堡』には、炯眼をもった温顔の俳人の志で貫かれている。再読に値する昭和の句集の一冊である。

※俳句ポストの月曜日のまとめはまだしておりません😅🙇。