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✏本屋さんで、「特集 横山白虹」という目次を見てつい買っちゃいました。『俳句界』4月号。

つい先日の4/14、「春季俳句大会」の時、会場の外側で煙草をふかしながら息子さんの横山哲夫氏と立ち話したばっかりでしたので特に、笑。また白虹さんのお嬢様(哲夫氏の妹さん)の寺井谷子さんも北九州で有名な俳人。

横山白虹氏の俳句で有名なのは、言うまでもなく、

🔵ラガー等のそのかちうたのみじかけれ

ですね。勝者の凱歌が短いと詠んだ、その短さは敗者への気遣い、共に死力を尽くして闘った者同士。

横山哲夫氏はこのブログでも取り上げたことがあります。
https://blogs.yahoo.co.jp/ajlf4921/12783187.html (句集『春星微笑』)

〇横山白虹氏の略年譜はコメント欄に書きました。

〇冒頭に掲げた、横山白虹さんの
【ラガー等のそのかちうたのみじかけれ】
について、三村純也さん(「山茶花」主宰)が次のように書いておられました。(…部分は中略箇所)。

白虹のラグビーの句は…昭和9年、大阪花園で日本対豪州の試合を観戦した際に作られた連作、
〈ラガー等に二つの國旗ひるがへり〉
〈枯芝にいのるがごとく球据ゆる〉
〈ラガー等の頬もぬれたり氷雨來て〉
〈審笛(ふえ)鳴りて手をとり合へりぬれし手を〉
の後に、最初に挙げた句が置かれている。

この句について…寺井谷子氏は、「ラグビーのノーサイドの精神を顕すと共に、その精神や燃焼という、青春そのものの姿を描ききった」(『現代俳句の観賞事典』)と評している。

平仮名表記…。「かちうた」と「勝ち歌」、「みじかけれ」と「短かけれ」では、印象が全く異なる。白虹はラグビーの男臭い、激しいぶつかり合いの中にも、青春の叙情を感じ取っている。そこに「新情緒主義」を唱えた白虹の原点を垣間見る。

〇同じその句について、今井豊氏(「いぶき」「藍生」)。

…ノーサイドの笛とともに、敵も味方もなくなり、相手チームの選手とがっちり握手し、抱き合い、健闘をたたえ合う。…やがて勝利チームは〇輪になり、勝利の雄叫びを上げる。…負けたチームも集まり輪になる。…敗者チームはなかなか輪が解けない。…「そのかちうたのみじかけれ」に勝利のチームの輝きと敗者チームとの対比までが刻印されている。ラグビーを詠んだ句の最高峰だ。

〇「私の好きな白虹の一句」という題で各氏が挙げられた一句、より。

(久保純夫氏 「儒艮」代表)
🔷ニコよ!青い木賊をまだ採るのか
(「ニコは娘谷子の愛称なり」)

瑞瑞しい木賊(とくさ)の青はこの俳句を特別にしている。…当時8歳の多子…行為自体に特別な意味はなく、少女らしく、その緑色に夢中になっていたのだろう。…ただ白虹にとって、その行動には善悪両様の要素が視えているのだ。…。

この句は、神野紗希さんも「好きな句」として挙げてました。やはり「木賊に夢中になるニコちゃん」のことを書いてましたね。

ニコは、いかにも少女らしく花畑でれんげやポピーの束を作るのではなく、渋くて地味な木賊を集め方ることに夢中…木賊を集める少女なら、のちに俳人の道を選ぶのも分かる気がする…。

(鳥居真理子氏 「門」「船団」)
🔷よろけやみあの世の螢手にともす

「よろけやむ」とはよろけ(肺疾患の俗称)を病むこと。その当時、鉱山労働者の多くが侵されたという。…しかし、この作品の優れているところは、時代がもたらした社会問題を示唆しながらも詩的な世界を構築していることである。…「よろけを病む」を「よろけやむ」とひらがなで表した作者。「蛍」は闇のなかで』「蛍火」となる。「闇」と「病み」のふたつが…重なり合うとき、この世の蛍はあの世の蛍に姿を変え、いっそう美しく…病者の掌に明かりを灯す…。…「よろけやむ」を詠う一連の作品はひらがな表記とも相俟って手触りもまた柔らかい。
〈よろけやみ水からくりに現(うつつ)あらず〉
〈よろけやみよごれし葛をもてあそぶ〉

(土肥あき子氏 「絵空」)
🔷アマリリス過去が静かにつみかさなる

掲句では、過去とは時の剥がれに紛れ消え去るものではなく、確固たるかたちを持って積み重かさなっていくものだという。さらに「つみかさなる」が仮名で表記されたことで、「つみ=罪」と匂わせているようにも思われる。

(前北かおる「夏潮」)
🔷春水に帆をあげしごと麩が走る

投げてやった麩のうちの一つが、鯉の口を逃れ…流れのない春水の上を思いがけない速さですべり出し…作者は、童心に返ってその行方を目で追った…。掲句は明るく伸びやか。

白虹の俳句というと、
〈雪霏霏(ひひ)と舷梯のぼる眸ぬれたり〉※「霏霏」=雪や雨が絶え間なく降るさま。
〈夕桜折らんと白きのど見する〉
など、明暗の狭間に美を探った作品が思い浮かびます。その点掲句の素材は…表現もどこか散文的で、その時の作者の心の内を飾らずに伝えています。ふと自由になった心が、明るい日なたにさらに輝くものを見出ださせた…。

(中岡毅雄「いぶき」代表・「藍生」)
🔷アドルムを三鬼にわかつ寒夜かな

アドルムは、睡眠薬の一種。大量にのむと、…非常に危険性の高いゆえに、昭和48年より、販売中止となり、現在は入手不可能…。横山白虹は、…昭和21年8月31日夜、隣接の産婦人科病院から出火、類焼して…一切を灰燼に帰す。白虹はこれを機に医療から離れる。この作品は昭和26年作。既に…アドルムの功罪については熟知していたはず…そのアドルムを西東三鬼に分け与えた。三鬼は歯科医。三鬼が不眠症であったかどうかは不明であるが、その作風より邪推すれば、麻薬的作用を喚起するために用いたのかも知れない。作者の不安と後悔が、季語「寒夜かな」から伝わってくる。

※あと、「横山白虹50句」(抄出・中村和弘)、「感謝状」(寺井谷子「自鳴鐘」主宰)、「父白虹・師白虹・俳人白虹」(横山哲夫 元長崎大学長)、「横山白虹第一句集『海堡』再読」(宇多喜代子 「草樹」会員代表)、「横山白虹氏の『青』」(村田喜代子 小説家)、「横山白虹は一つは風景」(島村正 「宇宙」主宰)、とありました。

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