■清水 1-0 東京ヴェルディ@IAIスタジアム日本平
東京ヴェルディはアウェイで清水エスパルスと対戦し、0-1で敗れる結果となりました。直前の試合で2連勝を飾り、残留争いから一歩抜け出しつつあったヴェルディにとって、この敗戦は3連勝を逃す痛恨の結果となりました。特に、清水の得点が前半18分に記録されたオウンゴールという、不運な形での失点であったことが、悔しさを一層深めています。
しかし私は結果は出なかったが、チームは前進しているといった、結果とは裏腹のポジティブな評価が多く感じました。
清水戦スタメン
城福浩監督は、連勝の勢いを継続するため、前節からスターティングメンバーに変更を加えず、3-4-2-1のシステムで試合に臨みました。序盤からお互いがアグレッシブに得点を狙いにいったという試合展開はヴェルディがJ1の舞台で通用するフィジカルと戦術的強度を持ち合わせていることが証明されました。
圧倒的な運動量
敗戦した試合において、最も知りたいのは選手たちがどれだけの努力をフィールドで尽くしたかという点です。東京ヴェルディの清水戦におけるトラッキングデータは、チームの献身性と、城福監督が植え付けたハイインテンシティなプレースタイルがJ1の舞台でも揺るがないことを明確に示しています。
試合全体における東京ヴェルディの総走行距離は115.826kmを記録しました。対する清水エスパルスの総走行距離は110.628kmであり、ヴェルディは相手チームを約5.2kmも上回る走行量でゲームに臨んだことになります 。これは、J1という極めてタフなリーグ、しかもアウェイでの大一番において、チームがフィジカルコンディションを高い水準で維持し、最後までアグレッシブにボールを追い、パスコースを作る努力を怠らなかったことの動かぬ証拠です。
特に個人のデータに注目すると、キャプテンの森田晃樹選手が11.332kmという傑出した走行距離を記録し、チーム全体のインテンシティを牽引しました。また、左WBとして攻守に奔走した深澤大輝選手も11.111kmを走り切っており、この高い運動量は、彼らが中盤における守備のフィルター役や、攻撃の起点を担う上で、極めて重要な役割を果たしたことを示しています。このフィジカルアドバンテージの恒常化は、ヴェルディがJ1残留という目標を達成するための最大の武器であると評価できます。
攻撃力の壁
運動量だけでなく、攻撃機会の創出においても、東京ヴェルディは清水を圧倒していました。これは、試合結果が示唆するような一方的な展開ではなかったことを示唆しています。
データによると、東京ヴェルディは総シュート数(SH)8本、コーナーキック(CK)11本を記録しました。一方、勝利した清水エスパルスはシュート数4本、CK5本に留まっています 。ヴェルディはシュート数で清水の倍を放ち、CKにおいては倍以上の機会を得ていました。この統計的な不均衡は、ヴェルディが敵陣深くまでボールを運び、攻撃的な機会を継続的に創出していたので見応えを感じました。
しかし、この数値的な優位性がゴールという結果に結びつかなかったことは、J1サバイバルにおける最大の課題を浮き彫りにしています。運動量や攻撃回数といった「量」では相手を上回っているものの、ペナルティエリア内での「決定力の質」や、シュートに至るまでの最後のパスの精度が、J1の厳しい守備を崩しきる水準に達していないということです。清水が4本のシュートのうち、不運とはいえ1点を奪った(オウンゴール)のに対し、ヴェルディが8本から無得点に終わった事実は、最終局面での冷静さとクオリティの差が結果に直結したと判断されます。
また、CKを11本獲得しながら得点に至らなかったという点も、セットプレーの脅威度が低いという構造的な課題を示唆しています。J1リーグで上位に上がっていくためには、流れの中から得点を奪えないとき、セットプレーを確実に得点源とする戦術的な多様性が不可欠です。
不運の18分
試合の行方を決定づけた前半18分の失点は、単なる不運なオウンゴールとして片付けることはできません。この失点シーンは、ヴェルディが採用する3-4-2-1システムの非保持時における、特定の守備構造上のリスクを露呈させました。
失点の起点は、清水の右サイドで松崎快選手がボールを持った場面です。これに対し左WBである深澤大輝選手が寄せにかかるも、松崎選手にあっさりと突破を許してしまい、フリーで危険なクロスを供給されました。そのクロスがニアに走り込んだ北川航也選手に向かう中、対応に入ったDF林尚輝選手の足に触れ、ゴールに吸い込まれています 。
この場面における問題点は、深澤選手の対応の甘さが、チーム全体の守備原則を破綻させたことにあります。ヴェルディの守備原則は、サイドのWBが相手のワイドアタッカーを「限定」し、縦突破やクロスを簡単に許さないことです。深澤選手がこれを徹底できなかった結果、中央の3バック(谷口、林、宮原)は、松崎選手のクロスボールと、ニアに飛び込む北川選手、さらには後から飛び込んでくる清水の選手たちに対する対応を同時に迫られる状況に陥りました。城福監督が試合後、「あそこを寄せられないのは、それを伝え切れてない自分の問題」とコメントしたことは 、この失点が個人のミスではなく、サイドの守備における「限定」の原則が浸透しきれていないという構造的な課題であったことを示唆しています。
前半の警告が中盤の強度に与えた影響
東京ヴェルディは、試合の入りから非常にアグレッシブなプレーを展開しましたが、その代償として、中盤の要である選手が早い時間帯にイエローカードを受けました。齋藤功佑選手が前半4分に、森田晃樹選手が前半39分に警告を受けています。
これらの警告は、試合の中盤から後半にかけて、ヴェルディの戦術的な選択に無意識の「ブレーキ」をかけました。両選手はボール奪取や、相手のビルドアップを寸断するためのアグレッシブなコンタクトプレーを主とする選手です。彼らがイエローカードを受けたことで、その後のプレーにおいて、カード累積による退場リスクを避けるため、本来発揮すべき強度でのタックルやボールへのプレッシャーを躊躇せざるを得ない状況が生まれます。
この「強制的なインテンシティの抑制」は、清水にとって大きなアドバンテージとなりました。ヴェルディの中央の守備フィルター機能が低下することで、清水は中盤でのボール保持により余裕を持ち、後半にかけて効果的なカウンターやポジショナルアタックを仕掛けるスペースと時間を確保できた可能性があります。齋藤選手は72分で交代となりましたが、この交代は、警告によるパフォーマンス制限と運動量の低下を考慮したものであったと推測されます。
攻撃の起点
清水戦で特にポジティブに評価した点の一つに、良い縦パスが何度も入ったという点があります。これは単なる個人の技術に依存するものではなく、チームの攻撃戦術が機能し、相手守備陣の間に効果的なスペースを見つけ出せていたことの証明です。
ヴェルディの攻撃の起点は、主にCB(谷口栄斗選手や林尚輝選手)から、相手の中盤と最終ラインの間に位置するシャドー(新井悠太選手、福田湧矢選手)へのくさびのパス、あるいはボランチ(森田選手、齋藤選手)から最前線で孤立しがちなFW染野唯月選手への供給であったと推測されます。これらの縦パスが成功したということは、最前線の選手たちが相手DFライン間の「ポケット」と呼ばれる危険なエリアに、正確なタイミングで顔を出せていたことを意味します。
これらの動きは、チームがハイインテンシティなプレーに加えて、ポジショナルプレーの原則を高いレベルで実行できている証拠であり、ヴェルディがJ1で前進していると感じられる具体的な戦術的進歩です。この縦パスによって相手のディフェンスラインを押し下げ、サイドのウイングバック(WB)がさらに高い位置を取り、攻撃に厚みを加えることが可能となっていました。
ヴェルディの課題
東京ヴェルディの清水戦は、データが示す通り、「内容で勝り、結果で負けた」試合であったと言えます。総走行距離、シュート数、CK数といった主要な統計指標が示す攻撃的な優位性と、選手たちの献身的な運動量は、チームがJ1の舞台で通用するインテンシティと戦術的な土台を確立していることの証明であり、チームは前進しています。
清水戦で示したフィジカルと闘志は、ヴェルディの大きなアドバンテージです。残りの試合に向けて、このインテンシティを維持しつつ、決定機を確実にモノにするための戦術的かつ技術的な微調整が、次なる「前進」の鍵を握ります。

