2006年11月19日(日)、

後楽園ホールにおいて、

第17回全日本フルコンタクトテコンドー選手権大会が開催された。


今大会は、

 ー新ルール「蹴美7Will」

を導入し、

試合時間も従来の3分から

2分に変更したことから、

 ー蹴美の競演の激増

を期待していたが、

ふりかえってみると、

(期待通りとまでは言い難い)

というのが、

偽わざる心境だ。


今後のJTA選手の技術的進歩を

より一層高めるため、

今大会の問題点から指摘したい。


我がJTAには、

組手スタイルに関する限り、

 ーモデルと言える武道がない

のであるから、

選手には高い要求を課していると思う。


たとえば、Kー1やキックボクシングをみれば明らかなように、

メインの技は、ただ二つ。

 ーパンチと回し蹴り

だけで、

その威力とテクニックを研ぎ澄ましながら競っているといえるだろう。


このスタイルは、

比較的ポピュラーであるから、

TVやビデオなどで観ることができるので、

模範とすることが可能だ。

だから後身の選手は、

組手スタイル確立のうえでは楽と言えば楽だ。


ところが、JTAの蹴美は、そういうわけにはいかない。

JTA選手の苦悩は、そこにあるのかも知れない。

けれども、

大変だからこそ、

 ー武道王国・日本で発祥した新武道としての意義がある!

ともいえるのである。


今大会は、エキサイティングな激戦が多く、

選手達には、

 ー慰労の言葉

を贈りたいのだが、


心を鬼にして、

技術的問題点を二つにしぼって批評すれば、

 ①回し蹴りがやたらと目立ち、その威力は明らかに増してはいるが、

 ②テコンドーの華である踵落とし蹴りの威力が落ちている

といえる。


これは優勝した長崎優子や斉藤健にも、いえることだ。

二人とも従来の得意技は、踵落とし蹴りで、

異名が、

 ーミス踵落とし

 ーミスター踵落とし

なのだが、

今回は、その異名通りとはいえなかった。


優勝して3連覇を果たした斉藤健は強かった。

斉藤には、

昨年に続き、

 ー蹴美宗師範賞奨学金30万円(昨年は25万円)

をあげたが、

昨年度に続き、

 ー蹴美宗師範賞にふさわしい蹴美の実力を発揮したのか?

と問われれば、

答えは、会場で観覧したみなさんが、よくわかるだろう。


神奈川大学在学中に得意としていた踵落とし蹴りの威力が落ち、

回し蹴りの威力が増していたことが残念でならない。


踵落とし蹴りは、

回し蹴りとは異なり、短期間に威力を増すという意味での即効性がない。

フルコン空手やキックボクシングが回し蹴り主体となるのは、

即効性があるからで、

身体が固くとも優れた回し蹴りは習得可能だ。

まさにローキックは、その典型で、

素人でも1日で蹴ることができる。

威力も体重に比例するので、

そこそこの運動経験があれば数日のうちにそれなりの蹴りを蹴ることができる。


しかし、踵落とし蹴りは、明らかに高度な技だ。

かなりの柔軟性とセンス、地道なカラ蹴り等が必要で、即効性がない技だ。

だからこそこの技の習得の意義がある。


故アンディ・フグの人気の源は、

 ー踵落としの蹴りの名手

だったからで、

難しい蹴り技で相手を倒す勇姿にファンは魅了されたはずだ。


斉藤健の異名は、先程も述べたように、

 ーミスター踵落とし

なのだが、

それは神奈川大学在学中の得意技だったからだ。

強い精神力と優れた蹴り技があるのだから、

来年度も全日本大会に出場するのであれば、

 ー蹴美宗師範賞にふさわしい王者の組手

を確立し、

 ーJTAの後身選手の模範となる組手

を歴史に残してもらいたい。

難しいことではなく、

 ー昔に戻る

だけのことで、より一層の精進を期待したい。

去年と今年の大会での

 ー総額55万円の奨学金

は、そういう期待を込めての授与だということを認識してもらいたい。


今大会は、まさに

 ーJTA戦国乱世

で、1回戦から「波乱」があった。


斉藤と同じことは、1回戦で、

 ーまさかの一本負け

を喫した妹尾将吾にもいえる。


客観的にみて妹尾は、

対戦選手の上田義和よりも優れた蹴り技があり、実力も一段上だろう。

なにせ、異名が、

 ー蹴美の魔術師

なのだから。


なのにだ。

1回戦では蹴り技よりも突きに集中し、

手技で勝負をつけようとしていた。

ここに大きな敗因がある。


おそらくトーナメント戦を勝ち残るため、

ケガをしないよう

 ー蹴り技を温存

したのだろうが、

キャリアがない分、

「蹴美7Will」を意識した

蹴り技主体の上田義和の

「ルールに適応したすなおな組手」(性格は、そうではないようだが・・・)に、負けたと言えるだろう。


持ち前の華麗な蹴り技で勝負をしていれば、

ああいう結果にはならなかった。

妹尾が得意とする踵落とし蹴りの間合いと

一本負けをくらった回し蹴りとの間合いは、違うからだ。

しかし、突きと回し蹴りとの間合いは、ほぼ一致する。

つまり、あの間合いは、

 ー蹴美の魔術師の間合い

ではなかったのだ。


期待していた成長著しい若手が、

1回戦で姿を消したのも、

 ーJTA戦国乱世

を象徴する出来事だった。

渡部翔太と高島大輔だ。


若いのだから、

のびのびとした組手をすべきで、

リングサイドから眺めていて

(考えすぎだなぁ)

と観じた。


JTA基礎理論講義で指導しているように、

 ー技は反復練習することで潜在意識および身体におぼえ込ませる

ことが必要で、

意識したからといって身体がイメージ通り動くわけではない。


翔太は、今後プロキックボクサーに専念するのだが、

本来は、優勝して尾崎圭司に続く

 「全日本フルコンタクトテコンドー選手権チャンピオン」

という肩書きを獲得してがんばってほしかった。


高島は、好不調の波が激しすぎる。

 ー極真空手史上最高のチャンピオン・数見肇君

のように、

誰に対しても、

 ー不動の王者の組手、

すなわち

 ー好不調の波のない安定した組手

の確立を目指して反復練習を実践すべきだろう。


以上、自画自賛するのではなく、

今後の期待を込めて、

全日本大会を終えて心身共に疲れ切っているであろう弟子や孫弟子達に

あえて叱咤激励するのが、

我が輩硬派感傷主義である。