貴明を保育園に送った帰り道。

我が輩は、共著『東アジア経済論ー改訂版』の担当章執筆の資料収集のため、

彦根市立図書館へ行った。

硬派な雑誌類、すなわち『文藝春秋』、『中央公論』、『現代』、『世界』等に掲載されている

ノンフィクションをチェックするためだ。


締め切りは、9月末なのだが、

資料収集を70%程度終えている程度で、

論文そのものは、ほとんど手をつけていない。


 ーそれでだいじょうぶなの?

   まともな学術論文がかけるの?

と、心配する明智君! 

ふっふっふっ、君は心配性だね。


我が輩は、学術論文に関する限り、

 ーエンジンがかかるまでが時間がかかる

のだ。

かかってしまえば、フェラーリほどではないにしろ、

メルセデス・ベンツのEクラス程度の加速がついて、一挙にぶっちぎることができるのだ。


サングラスをかけた我が輩が入館すると、

職員が、

 ーピキッ

と緊張するのがよくわかる。

彦根にはあまりお目にかかれない人種だからだ。


お目当ての硬派な雑誌類は、

入り口を入ってすぐ左側の本棚に陳列してある。


ざっと、40冊ぐらいは、

(ふむ、ふむ) 

と目を通した。

とはいっても、目次だけだ。

それだけで十分。我が輩の論文に必要か不要かは判別できるのだ。


(おや?! これは例のミラーマンの記事か!)

と目にとまったのが、

論文のテーマとはまったく関係のないインタビュー記事だった。


『月刊現代』2005年5月号掲載の「植草一秀インタビュー」だ。


植草氏は、東大卒業後、

京都大学助教授、野村総研主任エコミスト、早稲田大学大学院教授などを歴任した真正なエリート。

「ワールド ビジネス サテライト」などのテレビニュースの解説者として活躍。

論旨明快な主張に固定ファンも多く、人気を博していた。


現閣僚の竹中平蔵氏とは宿敵かつ論的。

ちまたでは、

 ー竹中がこけた場合、民間から起用される経済系大臣の有力候補

と噂されてもいた。


しかもだ。

長身かつイケメンで、年齢も我が輩と3~4歳しか違わない40歳前半。

髪もオールバックで、ふさふさときている(まったく、うらやましい!)。

げすな話だが、正攻法のステータスが高いといわれている職業で獲得していた年収は、

推定5千万円と言われていた。


ところがだ。

やはり昔の人は、正しかった。

 ー油断大敵

と。


2004年4月8日、JR品川駅高輪口のエスカレーター上、

前に立っていた女子高生(当時15歳)のスカートの中を

名刺程度の大きさの手鏡で、

のぞきみした容疑で現行犯逮捕されてしまったのだ。

なんでも神奈川県警鉄道警察隊員が横浜から尾行していたらしい。


マスコミは大騒動。

大パッシングの際、ついたあだ名が

 ーミラーマン

と、エコノミストをもじった

 ーテカガミスト

だった。


実は、我が輩は、

子供の頃から地元の京浜急行線と連絡している品川駅を頻繁に利用していた。

被害にあったといわれている女子高校生の制服もよくみかけるし、

逮捕現場は、今でもよくとおるので、

その都度、

(ここがミラーマン誕生の地か!)

と感慨深く、笑うのだった。  


我が輩は、おもしろ半分で、この記事を読んでしまった。

すると、次のような文章に遭遇した。

この記事を書いたのは、女性のルポライターなのだが、

彼女が裁判を傍聴した感想を次のように回想していた。


 ー公判を傍聴していて、私がもっとも強く感じたのは、

  取り調べを行った警察官(警視庁高輪署員F)に、はたして植草氏の罪状を問う「資格」があるのだろうか      (略)植草氏の弁護人と次のようなやりとりを行い、そのあまりの非常識さに私は何度も耳を疑った


と、憤りを述べた後、大略次のような文章が続いていた。

 

  弁護人「風俗に行くようにというアドバイスを(植草氏に)しましたか?」


  F警察官「それが(植草夫妻のセックスレス)原因かな? 

        と思ったのでアドバイスしました。

        本件は、性犯罪ですから、性癖その他こまかいところは聞くべきなんです」


  弁護人「(植草の)奥さんからウラをとったんですか?」


  F警察官「はい」


我が輩は、思わず

 「ギャハハッ!」

と周囲の迷惑を顧みず、大声で笑ってしまった。

可笑しくって入れ歯の前歯が抜けそうだった。


次いで記事は続く。


  F警察官「奥さんとしていない。他でもしていない(略)。

        性犯罪の場合、性的欲求を満たしていないことが、犯罪という歪んだ形で出ると思います。

          ー風俗にも行ったことがない

        と(植草氏が)言われたので、

          ー行った方が良い

        と言ったまでです」


「ギャッ、ハハッ!」

我が輩は、目が餃子になっていた。

二筋ほどの涙がこぼれてしまった。

もちろん、口は、まぬけな明石タコ状態。


さらに記事は続く。


  F警察官「後から(植草氏が風俗に行ったことがないというのが)ウソだとわかり、腹立たしく感じました」


「ギャハッ! もうやめて! おねがい! もう死ぬ!」

と、他人の迷惑かえりみず、笑い転げる硬派感傷主義。

 

極めつけは、植草氏が取調室でFから言われたと主張する次の回想。


「(F警察官は)きれいな奥さんじゃないか。

 もっとセックスしなさいよ。

 あんなにいい女だったら、オレが代わりたいぐらいだ」

と言いました。


もうこの日は、仕事にならなかった。

忘れて集中しようと思っても、なかなか頭から離れないのだ。

この記事の内容が!


夕方。

明宗を車に乗せて、貴明を迎えに行き、

そのまま米原駅へ新幹線を見に向う車中。


我が輩は、

「ひゃっひゃっひゃっ!」

と思い出し笑いをしてしまった。


すると、明宗が、

「アッパ! どうしたの?

 いきなり笑い初めて。何かおもしろいことでもあったの? 

 ねぇ、おしえて! おしえて!」 


隣の貴明も

「アッパ! わらった! わらった!」


我が輩は、

「ギャハハッ!」

と笑いつつも、

父親の威厳を保つため次のように言って諭した。


「いいか、明宗!

 今、おまえに言ってもわからないだろう。

 オチンチンに毛が生えたら、かならず教えてやるからな!

 ニャハッ!」

と、わかったようでわからない硬派感傷主義でした。