サミュエル・スマイルズ『自助論』 第3章 好機、再び来らずー人生の転機を見ぬく才覚、生かす才覚
スマイルズは、「幸運は手の届くところで待っている」と断言する。
「われわれを助けるのは偶然の力ではなく、確固としたとした目標に向かって
ねばり強く勤勉に歩んでいこうとする姿勢なのだ。
意志薄弱で怠惰な人間、目的もなくぶらぶらしている人間には、どんな幸運も意味を持たない」
彼らはチャンスを見逃すからだ。
「チャンスは、いつもわれわれの手の届くところで待っている。
問題は、それを機敏にとらえて実行に踏み出すかどうかなのだ」と言う。
では、どのような信念が必要なのか?
英国の名門オックスフォードのオール・ソウルズ・カレッジの日時計に刻まれている。
「時間とは消滅するものなり、かくしてその罪はわれらにあり」
つまり「永遠なるこの世の真理の中で、わずかに時間だけはわれわれの自由裁量にまかされている。
そして人生と同じように時間も、ひとたび過ぎてしまえば二度と呼び戻せはしない」のだから
「時間は貴重な財産である」と肝に銘じなければならないのだ。
(我が輩考→これはキリスト教プロテスンタントの教義の影響によるものだと思う)
では、いかなる工夫が必要なのか?
「心に浮かんだ考えや見聞きした事実は、必ず書き留めておく習慣をつけるべき」なのだ。
著名なベーコンは、たくさんの草稿を残してこの世を去ったが、
それには「執筆用に書き留めた断層」というタイトルがつけられていたという。
名医ジョン・ハンターによると、
「考えたことや見聞きしたことを書き留めるのは、商人が棚卸しをするのと同じだ。
それをしないと、自分の店に何が置かれていて何が足りないのか、さっぱりわからないじゃないか」と。
(我が輩考→ 弟子達に強調してきた「かならずメモをとれ!」というのは、まさにこれだ)
では、いかなる姿勢が必要なのか?
スマイルズは「信念は力なり」と言った。
過去の偉人の中には、なかなか認められず、大変な苦労をし、辛酸をなめさせられた者が多い。
しかし、「真のすぐれた人間は、他人の評価などにあまり重きを置かない。
自分の本分を誠心誠意果たして良心が満足すれば、それが彼らにとっては無情の喜びとなる」
からだ。
たとえば、血液が体内を循環しているという事実を発見したウィリアム・ハーベーは、自説を発表したが、
嘲笑を買い、侮辱を受け、軽蔑され、医者の仕事も減った。友人達もあきれて彼と交際しなくなったという。
彼の説が正しいと認知されたのは、25年後のことだった。
天然痘の予防法を発見したエドワード・ジェンナーも同じだ。
彼は、牛痘が天然痘に予防効果を持つと考えたが、誰も相手にしてくれなかった。
ただ一人例外的に、名医ジョン・ハンターだけが励ましてくれた。
ジェンナーは、20余年の研究を経て自説を公表した。
すると彼は、医学界や宗教界から誹謗と中傷にさらされた。
牧師達は、「種痘は魔法妖術のたぐい」であり、それを接種した子供は「牛のように顔が変わり」角が生えるといいふらした。
村人達は、驚き、そして怒り、ジェンナーに対して石を投げつけたという。
やがて彼の説は、正しいことが実証され、尊敬の対象となった。
しかし、ジェンナーは、成功の頂点に達した後も、不遇な無名時代の謙虚さを失わなかった。
ある俗物が、ロンドンで「医者を開業すれば、年収1万ポンドは固い」と勧めた。
だが、ジェンナーは、きっぱり拒絶して言った。
「若い頃から私は、谷間の道を歩むように静かでつつましい生活を求めてきました。
それなのに晩年のいまになって、どうしてわが道を山頂へ運んでいけましょう。
富や名声をめざすのは、私に似つかわしい生き方ではありません」
(我が輩考→こういう倫理的にも道徳的にも優れた方を医師というのだ。
たくさんの所得を得るため、医術を算術として利用している医者は、恥をしるべきだ!)