1858年に発表されたサミュエル・スマイルズ(Samuel Smiles。1812-1904)著

『自助論(Self - Help,with Illustrations of Character and Conduct)』(邦訳・竹内均、三笠書房、1988)は、不朽の名著である。


我が輩は、

 ー幸せになりたい!

 ー人生で成功したい!

と思うのであれば、かならず読むべき著作であると考えている。


『自助論』が執筆され発表されたのは、英国の産業革命の末期にあたる。

英国は、この産業革命を経て、世界経済の中心地となり、

新技術や生産方法などの発明・発見と、

それにともなう機械化・工場制度の普及、

そして大規模生産を実現して<世界の工場>となり、

世界の基軸通貨としてのポンド体制を確立してゆく。


だが、実は、この英国産業革命は、

英国政府による「上」からの誘導や計画ではなく、民間による「下」からの自生的なものであった。

英国は、スチュアート朝以降に生成した<地主資本主義>と呼ばれ、

少数の貴族や地主エリート、いわゆるジェントリー達による

秩序、権威、身分といった観念によって支配され、その伝統は今でも根強く残っている。


しかし、英国産業革命は、彼ら上流階級のエリート(学歴を意味するものではなく、生まれながら選ばれた天賦の資質身分を指す)達が推進したわけではない。


熟練の手工業者、ヨーマン(自営農民)、商人などの非エリートが推進したと言われている。

著名な経済学者A・マーシャルによると、

19世紀中葉の産業資本家の殆どは、辛苦の生活を体験しながら実業によって自己の道を切り開き

現在の地位まで這い上がってきた個人主義者である、と指摘している。


第一に、社会的身分の低い人々や無学文盲の貧民、

正規の技術教育を受けていない職人などの下層階級である。

たとえば、手動織物機械ジェニーを発明したジェイムス・ハーグリーブスは無学の大工、

ウォーター・フレームを発明したリチャード・アークライトは、素性の分からない無学文盲の貧民の床屋、

織物機械ミュールを発明したサミュエル・クロムプトンは、無名の織物工、

蒸気機関車を製作し、世界初の鉄道を走らせたジョージー・スチーブンソンは、貧しい炭鉱労働者、

ねじ切り旋盤を発明したヘンリー・モーズレーは、無名の職人、

ニッケル精錬業で成功したジョサイア・メーソンは、無学の織物工の息子で、初等教育すら終了していない等々。


第二に、英国の支配的宗教である国教会に帰依していない宗教的マイノリティである。

クエイカ-、メソジスト、ユニテリアンなどであるが、とくにクエイカー教徒から実業家が輩出された。

たとえば、世界初の鉄道(ストックトンからダーリントン間)の資本金の70%がクエイカーから拠出され、

世界的大銀行として<ビッグ・フォー>と呼ばれるロイド銀行やバークリー銀行もクエイカーが創業し、

コークス製銑法を発明したエイブラハム・ダービー、

鋳型で鋼鉄を鋳造する方法を発見したベンジャミン・ハンツマンなどもクエイカーであった。


この事実により、当時の大部分の英国民=非エリート達が、

産業革命末期とはいえ先人達のような成功への渇望を持ったとしても何ら不自然ではなかった。

そして上昇を臨む英国民が読みあさり、大ベストセラーになったのが、この『自助論』であった。


明治初期、この『自助論』が日本でも翻訳され、大ベストセラーになった。

幕臣だった中村敬宇(正直)が翻訳した『西国立志編』である。


現代日本は、好むと好まざるとにかかわらず<格差社会>と呼ばれ、

<勝ち組・負け組>等の成功や貧富の格差を示す概念が<市民権>を得ている観がある。


このような時代に若者が、

幸福をつかみ<成功>したいのであれば、

『自助論』は読むべきである、

と我が輩は考えているので、その内容を紹介したい。